※「AIが発明者」知財高裁も認めず 外堀知的財産事務所 メールマガジン 2025年3月号
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2025年3月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
┃
┃ ☆知財講座☆
┃ (14)新規事項を追加する補正とは
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┃ ☆ニューストピックス☆
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┃ ■「ビジネス関連発明」の最近の動向を公表(特許庁)
┃ ■「AIが発明者」二審も認めず(知財高裁)
┃ ■棋譜を再現した即時配信は「違法」(大阪高裁)
┃ ■第1回「知財・無形資産ガバナンス表彰」、味の素など5社
┃ ■特許技術でつくる!?「驚き本格チャーハンレシピ」(特許庁)
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特許庁は、「ビジネス関連発明の最近の動向について」の調査結果を公表しました。
近年、ICT(情報通信技術)を用いて実現された「ビジネス関連発明」の特許出願件数は増加しており、特に「経営・管理」分野や一般サービス業で大幅な増加傾向が見られます。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(14)新規事項を追加する補正とは
【質問】
特許出願を終えた後に出願済の内容に対して新しい技術的な事項を追加することはできないということですが、どのようなことが禁止されるのでしょうか?
【回答】
「新規事項を追加する補正は拒絶理由、無効理由になります」とよく言われます。どのようなものが「新規事項を追加する補正」とされるのか説明します。
<特許出願後、出願内容を補充・訂正可能>
発明は概念的なものです。このため、特許出願の際に特許請求する発明を文章(必要な場合には図面も添付)で説明することは容易でありません。そこで、特許出願の際に発明を説明するために提出していた文章、図面の内容を特許出願後に一切訂正できないことにすると新規な発明を他者に先駆けて公開(※)してくれた特許出願人、発明者の保護に欠けることになります。
※特許出願の内容は出願後18カ月後に出願公開公報やJ-Plat Patで社会に公表されます。
そこで、特許出願の際に発明を説明するために提出していた文章、図面の内容を、特許出願後に、補充・訂正する補正が特許出願人に認められています。
<補正後の内容で出願していたことになる>
補正が行われた場合、その補正の効果はいつから発揮されるのか?が問題になります。
補正が行われた時点からのみ補正の効果が発揮されることになると、例えば、特許出願の審査で、補正が行われるたびに特許性判断の時期を補正が行われた時点に変更しなければなりません。これは非常に煩雑です。
そこで、特許法では、補正の効果は特許出願の時点に遡及する、すなわち、特許出願の時点から補正後の内容で特許出願が行われていたとして取り扱っています。
<新規事項を追加する補正の禁止>
上述したように補正は出願時に遡って効力を発揮します。これを補正の遡及効といいます。
一方、同一の発明について複数の特許出願が競合した場合、一日でも先に特許出願を行っていた者でなければ特許取得は認められません(先願主義 特許法第39条)。
このため、出願当初の明細書や図面(以下「当初明細書等」といいます)に記載した事項の範囲を超える内容を含む補正が特許出願後に行われ、当初明細書等に記載されていなかった技術事項が追加された補正後の発明が、補正の遡及効によって、特許出願の時点から明細書に記載されていたとして取り扱うと先願主義の原則に反することになります。
そこで、特許出願人のために補正を許容する一方、先願主義の原則を実質的に確保し、第三者との利害の調整を図る目的で、明細書等の補正については、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしなければならない、すなわち、新規事項を追加する補正を行ってはならないとされています(特許法第17条の2第3項)。
<新規事項を追加する補正は拒絶、無効理由に>
補正が「当初明細書等に記載した事項」との関係において、新たな技術的事項を導入するものであるか否かにより、その補正が新規事項を追加する補正であるか否かが判断されます。
「当初明細書等に記載した事項」とは、当業者によって、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項です。
補正が「当初明細書等に記載した事項」との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである場合、その補正は、新規事項を追加する補正でなく、他方、補正が新たな技術的事項を導入するものである場合、その補正は、新規事項を追加する補正であって拒絶理由を受けることになります。審査の過程で審査官が気づかずに特許成立してしまった場合には特許無効の理由になります。
<どのような補正が新規事項追加になるか>
特許審査基準に記載されている事例をいくつか紹介します。
A 当初明細書等に明示的に記載された事項にする補正:〇
補正された事項が「当初明細書等に明示的に記載された事項」である場合には、その補正は、新たな技術的事項を導入するものではなく許容されます。
B 当初明細書等の記載から自明な事項にする補正:〇
補正された事項が「当初明細書等の記載から自明な事項」である場合には、当初明細書等に明示的な記載がなくても、その補正は、新たな技術的事項を導入するものではなく許容されます。
補正された事項が「当初明細書等の記載から自明な事項」といえるためには、当初明細書等の記載に接した当業者であれば、出願時の技術常識に照らして、補正された事項が当初明細書等に記載されているのと同然であると理解する事項でなければなりません。
C 数値限定を追加又は変更する補正
(ア)その数値限定が新たな技術的事項を導入するものではない場合には許容されます。
例えば、明細書(発明の詳細な説明)中に「望ましくは24~25℃」との数値限定が明示的に記載されている場合、その数値限定を請求項記載の発明(=特許請求する発明)に追加する補正は許容されます。
24℃と25℃の実施例が記載されている場合は、そのことをもって直ちに「24~25℃」の数値限定を追加する補正が許されることになりません。
(イ)請求項(=特許請求する発明)に記載された数値範囲の上限、下限等の境界値を変更して新たな数値範囲とする補正は、以下の(i)及び(ii)の両方を満たす場合、新たな技術的事項を導入するものではなく、許容されます。
(i) 新たな数値範囲の境界値が当初明細書等に記載されている
(ii) 新たな数値範囲が当初明細書等に記載された数値範囲に含まれている
D 発明の効果を追加する補正
一般に、発明の効果を追加する補正は、新たな技術的事項を導入するものであって許容されません。
しかし、当初明細書等に発明の構造、作用又は機能が明示的に記載されており、この記載から発明の効果が自明な事項である場合は、その発明の効果を追加する補正は、新たな技術的事項を導入するものではなく許容されます。
E 具体例を追加する補正
一般に、発明の具体例を追加する補正は、新たな技術的事項を導入するものであるので許されません。
例えば、複数の成分から成るゴム組成物に係る特許出願において、「特定の成分を追加することもできる」という情報を追加する補正は、一般に、許されません。
同様に、当初明細書等において、特定の弾性支持体を開示することなく、弾性支持体を備えた装置が記載されていた場合において、「弾性支持体としてつるまきバネを使用することができる」という情報を追加する補正は、一般に、許されません。
<最後に>
特許出願を行った後、特許出願で提出した文章・図面に記載していなかった技術的事項を追加する補正を行うと「新規事項追加の補正である」ということで拒絶理由になり、また、特許権成立後に新規事項追加の補正が審査で見逃されていたことがわかると特許無効理由になります。そこで、特許出願の際の発明を説明する文章・図面は慎重に準備する必要があります。詳しくは専門家である弁理士にご相談ください。
■ニューストピックス■
- 「ビジネス関連発明」の最近の動向を公表(特許庁)
特許庁は、「ビジネス関連発明の最近の動向について」の調査結果を公表しました。
https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/sesaku/biz_pat.html
ビジネス関連発明とは、ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を利用してビジネス方法が実現されている発明のことです。ビジネスの方法や仕組みに関する画期的なアイデアを思いついたとしても、アイデアそのものは特許の保護対象になりませんが、そのアイデアがICTを利用して実現された場合には、「ビジネス関連発明」として特許の保護対象となり得ます。
例えば、パーソナルコンピュータやスマートフォンを使用し、インターネットを介して行う電子商取引のビジネス方法などがあげられます。ビジネス関連発明の正確な定義はありませんが、一般にコンピュータ・ソフトウェア発明の一類型と位置付けられています。
特許庁の調査結果によると、国内のビジネス関連発明の特許出願件数は、2012年頃から増加に転じており、2022年は13,411件の出願がありました。当初低調であった特許査定率は年々上昇しており、近年は技術分野全体の特許査定率と同程度の70%台で推移しています。
分野別の出願件数をみると、2021年に出願されたビジネス関連発明のうち上位を占めるのは、以下の3分野です。
(1)サービス業一般(宿泊業、飲食業、不動産業、運輸業、通信業等)
(2)管理・経営(社内業務システム、生産管理、在庫管理、プロジェクト管理、人員配置等))
(3)EC・マーケティング(電子商取引、オークション、マーケット予測、オンライン広告等)
特に高い伸び率を示している分野は「管理・経営」です。社内の業務システムや在庫管理の最適化に人工知能(AI)を活用する発明が代表例として挙げられています。
- 「AIが発明者」二審も認めず(知財高裁)
AIを発明者とする特許出願の可否が争われた訴訟の控訴審判決で、知財高裁は、「特許法が規定する『発明者』は自然人に限られる」とした1審・東京地裁判決を支持し、原告側の控訴を棄却しました。
https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/757/093757_hanrei.pdf
判決によると、原告は、自らが作ったAIが考案した食品容器などを特許出願し、「発明者」をAIと記載しましたが、特許庁は「発明者は自然人に限られる」として出願を却下。原告側は「発明者がAIでも特許出願できる」と出訴しましたが、昨年5月の1審・東京地裁はこれを退けました。
今回、知財高裁は、原告の控訴を棄却すると共に次のように判示しました。国会での議論を促しているものと考えられます。
「特許法の制定当初から直近の法改正に至るまで、近年の人工知能技術の急激な発達、特にAIが自律的に『発明』をなし得ることを前提とした立法がなされていない」、「AI発明に特許権を付与するか否かは、発明者が自然人であることを前提とする現在の特許権と同内容の権利とすべきかを含め、AI発明が社会に及ぼすさまざまな影響についての広汎かつ慎重な議論を踏まえた、立法化のための議論が必要な問題であって、現行法の解釈論によって対応することは困難である。」、「発明者を自然人に限定した場合の弊害等も、これらの立法政策についての議論の中で検討されるべき問題である。」
- 棋譜を再現した即時配信は「違法」(大阪高裁)
将棋の指し手を記録する「棋譜」を再現した動画を即時配信していた男性ユーチューバーが、対局中継などを有料配信する「囲碁将棋チャンネル」の要請で動画を削除されたとして約340万円の賠償を求めた控訴審判決で、大阪高裁は、請求の一部を認めた一審・大阪地裁判決を取り消し、請求を棄却しました。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/782/093782_hanrei.pdf
判決によると、男性ユーチューバーは、将棋のタイトル戦に合わせて対局の棋譜をリアルタイムで再現する動画をYouTubeやツイキャスで配信していましたが、インターネットの中継番組を有料で配信している「囲碁・将棋チャンネル」の申請により動画が削除されました。
男性は、「指し手の情報は単なる事実で、違法に取得したものではない」と主張して、チャンネル側に削除の撤回や賠償を求める訴訟を起こし、1審の大阪地方裁判所は、「棋譜は、公表された客観的事実であり、自由に利用できる情報」などとして、チャンネル側に削除申請の撤回と118万円の支払いを命じました。
これに対し、チャンネル側は控訴し、2審の大阪高等裁判所では「棋譜は棋戦の主催者である日本将棋連盟と新聞社などが管理し、許諾を受けた囲碁将棋チャンネルなどが有料配信するビジネスモデルが成立している」と言及。ユーチューバーによる動画配信が繰り返されれば、「現状の規模で棋戦を存続させることを危うくしかねない」と指摘。その上で、男性の配信は自由競争の範囲を逸脱し、営業上の利益を侵害しているとして、不法行為にあたると結論付けました。
- 第1回知財・無形資産ガバナンス表彰、味の素など5社
知財・無形資産の戦略的活用により企業価値の向上を実現した企業を表彰する目的で設立された「知財・無形資産ガバナンス推進協会」は、第1回(2024年度)受賞企業として味の素など5社を表彰しました。
【最優秀賞】味の素株式会社
【優秀賞】株式会社アシックス
【特別賞】株式会社カプコン、デクセリアルズ株式会社、株式会社日立製作所
最優秀賞に選ばれた味の素は、経営理念の中核に「アミノサイエンス」という同社固有の無形資産が据えられており、知財・無形資産戦略が一貫性・網羅性をもって組み込まれている点などが高く評価されました。
受賞した各社は、それぞれ独自の無形資産を中核とする経営戦略や、情報開示、取締役会の関与などにおいて高く評価され、今後の知財・無形資産戦略の指針となる事例として位置付けられています。
- 特許技術でつくる!?「驚きの本格チャーハンレシピ」動画(前編・後編)を公開(特許庁)
特許庁は、YouTubeチャンネル「JPOちゅーぶ」で「特許技術でつくる!?驚きの本格チャーハンレシピ」動画(前編・後編)を公開しました。
https://www.jpo.go.jp/news/koho/info/tokkyorecipe-movie.html
「JPOちゅーぶ」は、特許庁が幅広い層に知的財産(知財)を楽しく学んでもらうために開設したもので、今回は、特許庁職員が特許技術(既に権利が消滅しているもの)を使って「パラパラ食感」の本格チャーハンを調理しました。
動画の後編では、チャーハンレシピの元となった「特許公報」の解説を通して、「チャーハンをパラパラにする」特許技術を紹介しています。
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発行元: 外堀知的財産事務所 弁理士
一級知的財産管理技能士 前田 健一
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