※特許・商標の権利化までの期間 外堀知的財産事務所 メールマガジン 2025年6月号
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2025年6月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
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┃ ☆知財講座☆
┃ (17)外観に特徴がある新規発明製品の保護(意匠法)
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┃ ☆ニューストピックス☆
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┃ ■「シャウエッセン」のストライプ柄が「位置商標」に(日本ハム)
┃ ■特許・意匠・商標のFA期間と権利化までの期間(特許庁)
┃ ■退職時にファイルを故意に削除、元従業員に賠償命令
┃ ■著作権者不明な著作物の利用手続を簡素化(改正著作権法)
┃ ■助成金情報 令和7年度「中小企業等海外侵害対策支援事業」
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特許庁は、独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)を通じて海外で取得した特許・商標等の侵害を受けている中小企業に向けた「令和7年度中小企業等海外侵害対策支援事業」を開始しました。
同事業では、海外での模倣品対策、冒認商標無効・取消係争、防衛型侵害対策にかかる費用の一部を助成します。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(17)外観に特徴がある新規発明製品の保護(意匠法)
【質問】
当社が新規に開発した発明品は技術的に新規であるだけでなく、その外観・形態がこれまでになかった特有のものになります。この外観・形態を保護することはできますか?
【回答】
物品の見た目、外観・形態、いわゆるデザインと呼ばれるものですが、これを保護するものとして意匠法による意匠登録があります。技術的な観点から創作の保護を図る特許と、物品の見た目、外観・形態の保護を図る意匠との関係を説明します。
<創作の保護という観点で特許と共通する意匠>
人間が頭の中で考え出した知的な情報であって、それを活用することによって財産的な価値が生み出される知的財産の中に、特許庁に出願・申請を行い、権利の付与を受けて保護される形式の特許権、実用新案権、意匠権、商標権があります。
これらは総称して産業財産権と呼ばれます。何らかの技術的な課題が存在しているときに、これを解決する技術的な工夫・創作として発明が完成して特許出願により特許権取得を目指し、その発明が具現化された製品を市場に売り出す際に、その製品の見た目、外観・形態に特徴があるということで新製品の見た目、外観・形態を保護すべく意匠登録出願により意匠権取得を目指し、その売り出す新製品につけるネーミングを商標として保護すべく商標登録出願により商標権取得を目指すというのが産業財産権の最も典型的な活用例とされています。
特許権で保護される発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作」です。意匠権で保護される意匠は「物品の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合等であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの」(意匠法第2条)ですが、意匠は創作を保護するという点で特許と共通していると考えられています。
意匠登録、意匠権付与が創作を保護するものである、というのは、工業上利用することができる意匠の創作をした者が意匠登録を受ることができるとされていて、意匠登録出願の時点での新規性や、従来公知の意匠等に基づいて簡単・容易に創作できたものではないという程度の創作性が意匠登録を受けるために要求されている点からうかがえます(意匠法第3条)。
<特許と意匠とによる複合的な保護>
特定の技術的な課題を解決できる発明を完成させたときに、その発明を製品に具現化すると見た目、外観・形態も従来になかった新規な見た目、外観・形態になる場合、特許出願を行って発明についての保護を求めるだけでなく、意匠登録出願を行ってその新規な見た目、外観・形態についても保護を求めることがあります。
特許庁は、物品の見た目、外観・形態であるデザインを保護する上で中心的な役割を果たす意匠制度の活用方法について具体的な事例に基づいて紹介する「事例から学ぶ意匠制度活用ガイド」を発行しています。
このガイドの冒頭で、「ビジネスにおいて、一つの製品に関して、複数の知的財産権により複合的な保護を図ること(いわゆる『知的財産権ミックス』)で、技術、デザイン、ブランドの模倣に多面的に対抗することができるようになります。」として紹介されているものの一つに株式会社ワコールが所有している特許第4061336号(2007年12月28日登録 発明の名称:運動用衣類)と意匠登録第1324024号(2008年2月8日登録 意匠に係る物品:スポーツシャツ)があります。
特許第4061336号は、2006年12月26日に日本国特許庁に日本語の国際出願で提出されました。翌年2月に日本国特許庁審査官が作成した「特許請求されている発明は新規性、進歩性を有している」という肯定的な国際調査報告を受け、2007年4月24日に日本国特許庁に審査請求しました。
引き続いて、2007年7月27日に意匠登録第1324024号が出願され、同時に、第1324024号の「スポーツシャツ」に外観・形態が似ている「スポーツシャツ」の意匠登録出願が10件行われました。この10件の意匠出願はいずれも意匠登録第1324024号の関連意匠として意匠登録されています。
上述の11件の意匠登録出願を行った後、前述したように審査請求していた特許第4061336号の出願について2007年11月21日に「早期審査事情説明書」を提出して早期審査を受け、1カ月後の12月18日に「特許査定」となり、特許料を納付して同年12月28日に特許権成立しています。
特許は技術的思想の創作を保護するもので、その保護範囲は、特許請求の範囲に文章で表現されている発明によって確定されます。そこで、ある程度の広がりがある技術的範囲を1件の特許でおさえることが可能になります。
一方、意匠は物品の見た目、外観・形態を保護するもので、見た目、外観・形態が多少でも異なると意匠権の効力が及ばなくなることがあります。
前述の例で運動用衣類(スポーツシャツ)を特許権と意匠権とで複合的に保護するにあたり、特許権は1件で、意匠権は意匠登録第1324024号及びこれに外観・形態が似ている10件の関連意匠、合計11件の意匠登録が行われているのはこのためではないかと思われます。
<特許出願から意匠出願への出願変更>
人間の頭の中で考え出された創作を保護するという点で共通していることから特許出願から意匠登録出願への出願変更が認められています(意匠法第13条)。特許出願を行う際に、特許請求している発明を具現化して市場に提供する新製品の外観・形態が既に決定されている場合、それを正面、背面、左・右側面、平面・底面から見た図や斜視図などを特許出願の図面に含めておくことができます。この特許出願の審査で最終的に「進歩性欠如、等」の理由で拒絶査定になったときに、特許権取得を断念して特許出願から意匠登録出願へ出願変更し、意匠登録を受けて意匠権で新製品の保護を図るものです。
特許では技術的な面からの新規性、進歩性が要求されますが、意匠で要求されるのは見た目、外観・形態における新規性・創作の非容易性であることからこのようなことが可能になります。
<新規な創作をどのように保護するか>
新規な創作を完成させた場合、それを特許で保護するか、意匠で保護するか、特許と意匠の双方で保護を図るか、いろいろな方法が可能です。専門家である弁理士にご相談ください。
■ニューストピックス■
- 「シャウエッセン」のストライプ柄が「位置商標」に(日本ハム)
日本ハム株式会社は、あらびきウインナー「シャウエッセン」のストライプ柄が、「位置商標」として登録されたと発表しました。
https://www.nipponham.co.jp/news/2025/20250422/
(登録第6914670号)
位置商標とは、商品や包装に付される図形などの標章の位置が特定された商標で、2015年に導入された新たなタイプの商標です。
標章が常に同一の位置に付されて長年使用されることにより、パッケージにロゴやブランド名がなくても識別性を獲得することができます。
「シャウエッセン」は1985年に発売され、今年で40周年となるロングセラーブランド。発売当時からストライプ柄を基調としたデザインが特徴的であると説明されています。
食品の位置商標では、キューピーマヨネーズの赤い「網目」(登録第5960200号)や日清食品のカップヌードル(日清食品の登録商標)の上下帯型(通称:キャタピラ)の図形(登録第6034112号)などがあります。
- 特許・意匠・商標のFA期間と権利化までの期間(特許庁)
特許庁より「ステータスレポート2025」が公表されましたが、今回は同レポートの中から特許・意匠・商標のFA(First Action)期間と権利化までの期間などを紹介します。
なお、特許のFA期間は、審査請求日から審査官による審査結果の最初の通知(主に拒絶理由通知書又は特許査定)が出願人へ発送されるまでの期間、意匠・商標のFA期間は、出願日から審査官による審査結果の最初の通知(主に拒絶理由通知書又は登録査定)が出願人へ発送されるまでの期間(ただし、新しいタイプの商標及び地域団体商標に係る出願を除く。)です。
また、特許の権利化までの期間は、審査請求日から特許査定・拒絶査定などの最終処分を受けるまでの期間、意匠の権利化までの期間は、出願日から権利化までの期間、商標の権利化までの期間は、出願日から登録査定・拒絶査定などの最終処分を受けるまでの期間(ただし、新しいタイプの商標及び地域団体商標に係る出願を除く。)です。
<特許>
・通常審査のFA期間:平均9.4月
・権利化までの期間:平均13.8月
・早期審査のFA期間:平均2.3月
・スーパー早期審査のFA期間:平均0.8月
<スーパー早期審査について>
スーパー早期審査とは、早期審査よりも更に早期に審査を行う制度です。スーパー早期審査の対象は、「実施関連出願」かつ「外国関連出願」、又はベンチャー企業による出願であって「実施関連出願」であること等が必要です。
スーパー早期審査の対象となる場合、現行の早期審査と比較して、より早期に審査段階での最終結果を得ることができますが、早期に査定が確定して国内優先権を主張可能な期間が短くなる可能性や早期に特許掲載公報が発行され、改良発明の障害になる可能性に注意する必要があります。
スーパー早期審査制度の対象となるのは特許案件だけです。 商標と意匠の登録出願にはスーパー早期審査制度の適用はありません。
<意匠>
・通常審査のFA期間:平均6.0月
・権利化までの期間:平均6.8月
・早期審査のFA期間:平均2.1月
<商標>
・通常審査のFA期間:平均6.1月
・権利化までの期間:平均7.3月
・早期審査のFA期間:平均1.7月
- 退職時にファイルを故意に削除、元従業員に賠償命令(徳島地裁)
元従業員が退職する際に社内のファイルを故意に削除したとして会社側が損害賠償を求めた裁判で、徳島地方裁判所は「会社の利益を侵害した」として元従業員に対し、約570万円の支払いを命じました。
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/955/093955_hanrei.pdf
大手半導体企業の開発部門に勤務していた元従業員は、退職日に共有ファイルを削除する「バッチファイル」が起動するように設定し、ファイルの削除を実行しました。
裁判で元従業員側は、意図的に削除したのは主に自分が作成したソフトで、そのほかは誤って消えたもので故意ではない等と主張。これに対し、会社側はデータを承諾もなく削除され、会社の利益が侵害されたとして、約2580万円の損害賠償を求めていました。
元従業員は、退職直前に共有サーバ内のファイルを削除するプログラムを作成し、退職日に起動するよう設定。削除されたファイルは、元従業員が業務中に作成したもので、232のフォルダ内に保存されており、実験装置の操作手順書や実験データなどが含まれていました。
- 著作権者不明な著作物の利用手続を簡素化(改正著作権法)
政府は、著作権者が不明などの著作物の利用手続を簡素化する改正著作権法を、2026年4月1日に施行することを閣議決定しました。今回の改正によって、利用されずに埋もれている著作物を円滑に二次利用できる「未管理著作物裁定制度」の運用が始まります。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/chosakukensha_fumei/tyosakubutsu/index.html
同制度は、著作権者と連絡が取れないものや、著作権者がわからないものなどについて、文化庁長官の裁定(利用許諾)により、利用者が補償金を支払うことで合法的に利用可能とするものです。これにより、著作権者への対価還元や利用ニーズの発掘といったメリットがあるとされています。
裁定の結果、利用が認められた作品は文化庁のサイトで公開します。利用者は国の指定機関に補償金を納めることで、当該作品を裁定が取り消されるまで、1回の申請につき3年を上限として利用できます。
一方、著作権者側は文化庁に対して、裁定の取り消しを求めたり、利用者が納めた補償金を作品の利用料として受け取ることができます。
文化庁は裁定申請時の手数料を1万3800円とする方針です。利用の際には、手数料のほか、補償金(裁定時に相場をもとに金額を決定)の納付が必要となります。
- 助成金情報 令和7年度「中小企業等海外侵害対策支援事業」
特許庁は、独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)を通じて、海外で取得した特許・商標等の侵害を受けている中小企業に向けた「令和7年度中小企業等海外出願・侵害対策支援事業(中小企業等海外侵害対策支援事業)」を開始しました。
https://www.jpo.go.jp/support/chusho/shien_kaigaishingai.html
①模倣品対策支援
海外での模倣品流通状況の調査や模倣品業者への対抗措置に要する費用の3分の2(上限額400万円)を補助。
②冒認商標無効・取消係争支援
現地企業などに不当に出願・権利化された商標を取り消すために要する費用の3分の2(上限額500万円)を補助。
③防衛型侵害対策支援
海外で産業財産権に係る係争に巻き込まれた場合の対抗措置に要する費用の3分の2(上限額500万円)を補助。
各支援事業の申し込み締め切りは10月31日。予算がなくなり次第終了。
詳細に関してはジェトロHPを参照。
<模倣品対策支援>
https://www.jetro.go.jp/services/ip_service.html
<冒認商標無効・取消係争支援事業>
https://www.jetro.go.jp/services/ip_service_overseas_trademark.html
<防衛型侵害対策支援事業>
https://www.jetro.go.jp/services/ip_service_overseas.html
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