※中小企業の知的財産侵害の実態調査開始 外堀知的財産事務所 メールマガジン 2025年10月号

外堀知的財産事務所メールマガジンを発行しましたので、ブログへ転記いたします。

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◇◆◇ 外堀知的財産事務所 メールマガジン ◇◆◇

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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━

                       2025年10月号

 

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┃ ◎本号のコンテンツ◎

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┃ ☆知財講座☆

┃(21)過去の自社の特許出願が拒絶理由に引用

┃ ☆ニューストピックス☆

┃ ■中小企業の知的財産侵害の実態調査を開始(公取委など)

┃ ■税関の輸入差し止め件数、過去2番目の多さ(財務省)

┃ ■企業の営業秘密の漏えいが大幅に増加(情報処理推進機構)

┃ ■コンクールの応募要領、著作権譲渡は不適切(美術系団体)

┃ ■解説動画「特許出願の手続2025」を公開(INPIT)

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 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、「企業における営業秘密管理に関する実態調査2024」の報告書を発表しました。

 報告書によると、近年、企業における営業秘密の漏えい事例が大幅に増加しています。

 そこで今号では、報告書の概要と不正競争防止法における「営業秘密の要件」について取り上げます。

 

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃

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(21)過去の自社の特許出願が拒絶理由に引用

 

【質問】

特許出願を行って特許庁の審査を受けたところ、その昔に自分が発明し、自分の会社で特許出願していたものが拒絶理由の先行技術に引用されました。自分が過去に行った発明、過去の自社の特許出願の存在を根拠にして「特許を与えることができない」とされるのは納得できません。

 

【回答】

自社がその昔に行っていた特許出願の特許出願公開公報が拒絶理由に引用されることはあり得ます。なぜそのようになるのか説明します。

 

<特許出願・特許出願公開の効果>

特許出願を行いますと、その日より後に同一の発明について特許出願が行われた場合、後からの出願には特許が与えられないという先願の地位(特許法第39条)を確保できます。

そこで、自社で実施する技術内容について特許出願を行っておけば、その後に他社が同一発明について特許出願を行ったとしても、その後からの他社の特許出願に基づいて、他社が、「御社が実施されている技術は当社の特許権を侵害するものです」と指摘してくる危険を少なくすることができます。

さらに、特許出願日から1年6カ月が経過して特許庁が出願内容を特許出願公開公報(以下「公開公報」といいます)によって社会に公表してからは、公開公報に記載されている事項に基づいて簡単・容易に発明できるものをだれかが特許出願してもそれは「進歩性欠如」として拒絶されるようになります。

そこで、自社が実施している技術の周辺技術について、公開公報発行後に他社が特許出願を行って特許権取得する可能性を少なくさせることができます。

 

<新規性・進歩性が欠如していて特許付与されない発明>

どのような発明が新規性を喪失していて特許付与が認められないものであるか特許法第29条第1項第1号~第3号で次のように規定されています。

特許法第29条第1項

1号 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明

2号 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明

3号 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明

また、特許法第29条第1項第1号~第3号の規定に該当せず、新規性を備えていると認められる発明であっても、次のような場合には進歩性欠如で特許を認めることができないと特許法第29条第2項に規定されています。

特許法第29条第2項

特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識をする者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。

 

<特許法第29条第1項第3号の「頒布された刊行物」>

特許法第29条第1項第3号の「頒布された刊行物」には、特許庁が特許出願を受け付けてその後1年6カ月にわたって秘密状態を守り、出願日から1年6カ月経過した後にすべての特許出願の内容を社会に公表するべく発行する公開公報が含まれます。

そして、特許法第29条第1項第3号には、「ただし、当該刊行物記載の発明者が審査を受けている特許出願の発明者と同一である場合を除く」というような文言は存在していません。

そこで、公開公報発行後の特許出願の発明者、出願人が、公開公報に係る特許出願の発明者、出願人と同一であっても、公開公報発行後の特許出願に対して、発行済の公開公報が、特許性(新規性、進歩性)を否定する先行技術文献になり得ます。

 

<特許出願された発明は社会の共有財産>

特許庁で審査を受けて新規性、進歩性などの特許要件を具備していると認められた発明には特許が成立し、特許権を維持するための毎年の特許料を特許庁に納付することで原則として出願日から20年を越えない期間、特許出願人=特許権者に独占排他権たる特許権が付与されます。

しかし、発明の保護と利用のバランスを図って産業の発達を目指すとする特許制度の下では、前記のように特許権を付与して保護を図る一方で、特許出願された発明、すなわち、出願日から1年6カ月経過して特許庁から公開公報が発行された発明は、社会共有の財産として取り扱うことにしています。

公開公報に記載されている内容は、文献的利用に供され、世の中の人々、企業は、だれでもが公開公報に記載されている内容を参考にして研究・技術開発を行うことが許されています。

また、ジェネリック医薬と呼ばれるように、特許権存続期間の満了、特許維持年金の納付中止などによって特許権が消滅した後は、だれでもが消滅した特許権に係る発明を実施することが許されています。

公開公報に記載されている内容はこのように社会の共有財産として利用されるものですから、自社がその昔に行っていた特許出願であって、発明者、特許出願人が、審査を受けている特許出願の発明者、特許出願人と同一という公開公報であっても、例外扱いされず、審査を受けている発明の新規性・進歩性を否定する先行技術文献として利用されることになります。

 

<自社の特許出願・技術開発の歴史の把握・管理>

自社がその昔に行っていた特許出願の公開公報が新規性・進歩性欠如の拒絶理由に引用されてしまった、という事態は、特許出願の経験が多くなく、自社の特許出願内容の管理が十分ではなかったというような企業だけでなく、特許部・知財部を備えて適切な管理を行うようにしている企業でも起こることがあります。

例えば、自社が過去に行った特許出願の内容について複数の発明者の間で情報の共有が不足しているときなどに起こることがあります。

そこで、自社の特許出願・技術開発の歴史・沿革を把握・管理し、継承しておくことが大切になります。

 

■ニューストピックス■

 

  • 中小の知的財産侵害の実態調査を開始(公取委など)

公正取引委員会と中小企業庁、特許庁は合同で、中小企業の知的財産侵害に関する実態調査を開始しました。

 

https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/chizaitorihiki_wg/001/002.pdf

 

公取委・中小企業庁・特許庁という三機関の連携によって全業種を網羅的に調べ、中小企業の権利保護に向け、監視を強化する方針です。

これまでは製造業とスタートアップ企業が対象だった調査を全業種へと広げ、特許などの知的財産権や権利化されていないノウハウなどが適正に取り扱われているか取引実態を調べます。

また、中小企業の中には自社が持つデータの価値に気付かず、取引先に不当に利用されるおそれがあるとして、生産設備などのデータも新たに調査対象としました。

調査は、業種の偏りを避けるため、無作為に抽出した企業にアンケート調査票を送付する第1段階と、今秋以降に当事者へのヒアリング(聞き取り)を行い、取引実態を詳しく掘り下げる第2段階から構成されます。

公取委は、調査で収集した事例を分析した上で、2026年度以降の独禁法のガイドラインに違反事例を反映させるほか、下請法の運用基準を見直す方針です。

 

  • 税関の輸入差し止め件数、過去2番目の多さ(財務省)

財務省は、全国の税関が2025年上半期(1~6月)に偽ブランドなど知的財産権侵害を理由に輸入を差し止めた件数は前年同期比5.6%減の1万7249件だったと発表しました。

 

https://www.mof.go.jp/policy/customs_tariff/trade/safe_society/chiteki/cy2025_1/index.html

 

過去最多の24年上半期よりは減少しましたが、3年連続で1万5千件を超す高水準となり、過去2番目の多さとなっています。

22年から個人が使う目的で輸入した模造品も没収対象になり、件数が高止まりする一因となっています。

 品目別では、衣類が2.5%増の6825件で最多。次いでバッグ類が1.0%増の4225件。一方、靴類は19.5%減の1867件、携帯電話や付属品は4.9%減の908件でした。

発送元は中国が84%と最も多く、次いでベトナムの9%。

 

  • 企業の営業秘密の漏えいが大幅に増加(情報処理推進機構)

 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、「企業における営業秘密管理に関する実態調査2024」の報告書を発表しました。

 

https://www.ipa.go.jp/security/reports/economics/ts-kanri/j5u9nn0000004yjn-att/TradeSecret_report_2024_r1.pdf

 

 報告書によると、営業秘密の漏えい事例や事象を認識している割合は、前回調査(2020年)の5.2%から35.5%と大幅に増加しました。

営業秘密の漏えいルートで最も多かったのは、「外部に起因するサイバー攻撃による漏えい」の36.6%でした。

このほかのルートでは内部に起因するものが多いことが分かりました。「現職従業員などのルール不徹底(ルールを知らなかったなど)による漏えい」(32.6%)、「現職従業員などによる金銭目的などの具体的な動機を持った漏えい」(31.5%)、「誤操作・誤認などによる漏えい」(25.4%)、「外部者(退職者を除く)の立ち入りに起因する漏えい」(20.2%)など。

一方で、「中途退職者(役員・正規社員)による漏えい」は前回調査の36.3%から今回調査では17.8%に低下しました。

 

  • 営業秘密とは●

不正競争防止法において「営業秘密」とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法、その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」と定義されています。

具体的には、①秘密管理性、②有用性、③非公知性という3要件が全て満たされていることが必要です。

したがって、たとえ社内で「秘密」とされている情報であっても、この3要件が満たされていなければ、不正競争防止法においては「営業秘密」として保護されないことになります。

 

【①秘密管理性(秘密として管理されていること)】

秘密管理性が認められるためには、主観的に秘密として管理しているだけではなく、客観的にみて秘密として管理されていると認識できる状態にあることが必要とされています。

例えば、書類に「部外秘」「マル秘」と記載されているなど、それが明らかに秘密情報であることを認識できるようにしていること、特定の社員以外の者はアクセスできないような管理措置がとられていることなどがあります。

 

【②有用性(有用な営業上又は技術上の情報であること)】

有用性が認められるためには、その情報自体が客観的に活用されることによって、商品開発の効率化、経営の改善等に役立つものであることが必要となります。

例えば、製造ノウハウ、仕入れ価格などは有用性が認められる情報です。

 

【③非公知性(公然と知られていないこと)】

非公知性が認められるためには、その情報が保有者の管理下以外では、一般に入手できないことが必要です。

例えば、刊行物などに記載されていたり、学会発表等で公開されたりしている情報については、非公知性は認められません。

特許を取得して公開されている情報には非公知性が認められません。

 

  • コンクールの応募要領、著作権譲渡は不適切(美術系団体)

日本美術著作権連合、日本美術家連盟など、美術系8団体は、各種コンクールの応募要領に盛り込まれた「応募作品の著作権は主催者に帰属する」などの規定は「不適切」とする共同声明を発表しました。

 

https://www.jart.tokyo/jart_wp/wp-content/uploads/2025/07/48def3667bfab6236e53e8f672a453bf-1.pdf

 

声明によると、さまざまな美術コンクールの応募要領で、応募・入選作品の著作権を主催者に譲渡させたり、コンクール終了後に応募作品を返却しないとする規定が多くみられると指摘しています。

こうした規定では、コンクールに応募すると、著作権が主催者に譲渡され、落選したとしても、その後、作者のホームページなどで応募作品を使用する場合、主催者の承諾が必要になるなど、自身の作品を自由に使用することができなくなります。

声明では、「応募者の権利を尊重する応募要領を定めていただきたい」と要望しています。

 

  • 解説動画「特許出願の手続2025」を公開(INPIT)

INPIT(工業所有権情報・研修館)は、無料で学べる動画「特許出願の手続2025」を公開しました。

 

https://www.inpit.go.jp/jinzai/topic/info_20250822.html#anchor1

 

本動画は、特許出願における出願手続の流れや特許願の作成方法、出願と同時にしておくべき手続など、特許出願をされている方、検討中の方向けに公開していた解説動画を今年度版の内容に改訂したものです。

特許出願の手続を行う際に生じた疑問・不明点を動画で気軽に確認することができます。

なお、特許出願手続に関する詳細については、特許庁のサイト(出願に関する情報、手数料に関する情報等)でも紹介しています。

 

https://www.jpo.go.jp/system/process/shutugan/madoguchi/info/index.html

 

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発行元: 外堀知的財産事務所

弁理士 前田 健一

〒102-0085 東京都千代田区六番町15番地2 鳳翔ビル3階

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