※『知的財産推進計画2025』が決定 外堀知的財産事務所 メールマガジン 2025年7月号

外堀知的財産事務所メールマガジンを発行しましたので、ブログへ転記いたします。

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◇◆◇ 外堀知的財産事務所 メールマガジン ◇◆◇

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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━

                       2025年7月号

 

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┃ ◎本号のコンテンツ◎

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┃ ☆知財講座☆

┃(18)審査請求するタイミングの検討

┃ ☆ニューストピックス☆

┃ ■「知的財産推進計画2025」を決定(政府)

┃ ■AIが作成した商標登録、現行制度で可否を判断(特許庁)

┃ ■「セキュリティ・クリアランス」法が施行、運用開始(政府)

┃ ■「AI新法」が成立、研究開発・活用を推進(政府)

┃ ■偽キャラクターグッズ対策委員会を発足(CODA)

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政府は、知的財産に関する今年の戦略をまとめた「知的財産推進計画2025」を決定しました。

同計画では、AI技術の進歩と知的財産権の保護の両立を目指す方針が示されたほか、日本の知的財産の国際競争力を高め、国際的なランキングで4位以内を目指すことなどが盛り込まれました。

また、中小企業関連では、中小企業を取り巻く課題とその対応のための知財面からの支援策なども掲載されています。

 

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃

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(18)審査請求するタイミングの検討

 

【質問】

 特許出願では出願手続と別個に審査請求という手続を行わないと特許庁での審査が開始されないと聞いています。審査請求をいつ行えばよいのか、審査請求するタイミングの検討にあたって考慮すべき要素としてどのようなものがあるか教えてください。

 

【回答】

 審査請求するタイミングを検討する際のいくつかの考慮要素について説明します。

 

審査請求のタイミングを検討する考慮要素

<審査請求を行える期間>

 特許出願日から3年以内のいつでも審査請求できます。そこで、特許出願と同時に審査請求することができますし、特許出願日から3年目ぎりぎりの日に審査請求することもできます。そして、出願日から3年以内に審査請求しなければ特許出願は消滅し、その後に復活させて審査を受ける状態に戻すことはできません。

 どのタイミングで審査請求するか、なによりも、この審査請求を行うことのできる期間を考慮していなければなりません。

 

<特許出願した発明についての改良>

 特許出願した発明については出願後にも様々な改良、改善が加えられます。特許出願後に研究・技術開発を続けて改良発明が完成した場合であって、改良発明の完成が特許出願後1年以内であるならば、1年以内前の先の特許出願の内容に改良発明を追加した新たな特許出願(「優先権主張出願」といいます)に乗り換えることが可能です。

 優先権主張出願の中には優先権主張の基礎にしている先の特許出願の内容が全部取り込まれます。そして、優先権主張出願について審査を受けるときに、優先権主張出願で追加した改良発明については、優先権主張出願の日を基準にして特許性(新規性、進歩性など)が判断されます。一方、優先権主張の基礎にしていた先の特許出願に記載されていた発明については、優先権主張出願の日ではなく、優先権主張の基礎にした先の特許出願の日を基準にして特許性(新規性、進歩性など)が判断されるという優先的な取扱いを受けます。

 このため、優先権主張の基礎にした先の特許出願を残しておく意義はなく、優先権主張出願を行いますと優先権主張の基礎になった先の特許出願は「取り下げたものと見なされ」消滅します。

 優先権主張出願を行うことができるのは最初の特許出願の日から1年以内に限られています。1年を経過した後は、その改良発明について、独自に特許出願を行う意義があるかどうかを検討することになります。

 最初の特許出願の日から1年以内であれば、その後に誕生した改良発明を含めた優先権主張出願に乗り換えることが可能で、優先権主張出願を行うと優先権主張の基礎になった先の特許出願は上述したように消滅します。そこで、最初の特許出願から1年間程度は、特許出願した発明についての改良、改善の進展具合が、どのタイミングで審査請求するかを検討する考慮要素の一つになります。

 

<審査請求後、審査結果が確定するまでの期間>

 特許庁から審査結果を受け取ることができるのは、一般的には、審査請求後11か月程度経過した頃です。

 審査の結果、拒絶理由通知を受けると60日以内であれば意見書・補正書を提出して反論し、審査官に再考を求めることができます。

 意見書・補正書提出で「拒絶理由は解消し、その他の拒絶理由も発見できない」あるいは、「拒絶理由は解消していない」と、直ちに、審査官が判断できる場合には、意見書・補正書提出後1~2カ月で「特許査定」あるいは、「拒絶査定」という審査官の最終判断を受けます。なお、意見書・補正書提出により、「拒絶理由は解消しているように思われるので直ちに拒絶査定にすることはできないと思われるが、はたして、その判断でよいのだろうか」と、審査官が更なる調査、審査に進むようになった場合、上述した「特許査定」、「拒絶査定」、あるいは、2度目の「拒絶理由」通知を受けるのは、意見書・補正書提出してから1年程度後になることがあります。

 

 <早期審査>

 審査請求と同時に「早期審査の事情説明書」を提出すれば、審査請求後3~4か月程度経過した頃に審査結果(拒絶理由通知あるいは、特許査定)を受け取ることができます。

 審査請求してからどの程度の期間で審査結果を特許庁から受け取ることができるかは、どのタイミングで審査請求するかを検討する考慮要素の一つになります。

 

<特許出願の内容が特許庁から公表される時期>

 特許庁は特許出願を受け付けると直ちに特許出願番号と特許出願日を付与します。これによって、同一の発明については最も先に特許出願を行っていた者が特許を受け得るという先願の地位(特許法第39条)を確保できます。

 その後、特許庁は、受け付けた特許出願の内容を秘密に保持してくれます。この時点では、だれも特許出願の内容を見ることができません。

 一方、特許出願日から18カ月が経過しますと、特許出願の内容が、発明者、特許出願人に関する情報も含めて、特許庁から発行される特許出願公開公報に掲載され、同時に、特許庁のウェブサイトJ-Plat Patで世界中に公表されます。

 このため、特許出願後18カ月経過するまでは、特許出願した発明の実施品に「特許出願済」、「特許出願中」という表示を付けていても、どのような技術内容について特許取得が目指されているのか、同業他社は知ることができません。

 一方、特許出願日から18カ月経過して上述したように出願公開が行われますと特許出願の内容が同業他社に知られることになります。

 そこで、この出願公開の時期は、どのタイミングで審査請求するかを検討する考慮要素の一つになります。

 

<第三者による特許庁への刊行物提出>

 特許出願公開によって特許出願の内容が社会に公表されると、「その発明について特許成立しては困る」等と考える同業他社などが、「この特許出願について審査を行う際に、特許出願前に世の中に公表されていたこれらの文献、等に記載されている情報を利用してください」ということで、特許庁に対して、匿名で、刊行物提出することがあります。

 刊行物提出が行われたことは、直ちに、特許庁から特許出願人に通知され、特許出願人は、提出された刊行物の内容を入手・確認できます。

 そこで、特許出願公開が行われた後の自社の特許出願に対して「刊行物提出」があるかどうかは、どのタイミングで審査請求するかを検討する考慮要素の一つになります。

 

<特許出願した発明を製品(商品)として市場に投入する時期>

 先願主義(特許法第39条)の下、一日でも先を争って特許出願しますから、特許出願した発明を、製品(商品)化して市場に投入できるかどうか、特許出願の時点では未定であることがあります。

 結果的に、出願日から3年経過する時点でも製品(商品)化のめどが立たず、審査請求しないで特許出願を消滅させることが起こり得ます。なお、審査請求を行わずに特許出願を消滅させても、特許出願が行われていたという事実と、その出願内容が上述した特許出願公開によって世界中に公表されているという事実は残ります。

 特許出願した発明が実施化されている商品を市場に提供する際に特許成立していれば「特許第〇〇〇号」という特許表示を付けることが可能になります。また、審査の結果、特許成立しない場合であっても、進歩性欠如という理由で特許成立しないならば、特許出願した発明を実施化した商品を市場に提供したときに第三者の特許権を侵害する可能性は大きくないことを確認できます。

 そこで、特許出願した発明を実施化した商品を市場に提供する時期は、どのタイミングで審査請求するかを検討する考慮要素の一つになります。

 

<同業他社による実施の動向>

 自社の特許出願に成立した特許権に基づいて同業他社の行為に対して権利行使できるのは、特許庁での審査を受けて特許権が成立した後になります。

 そこで、自社で特許出願済の発明を実施化したと思われる商品や、自社で特許出願済の発明に特許権が成立したならば「特許権侵害品になりますから製造・販売を中止してください」と権利行使できるのではないかと思われるような商品が同業他社から市場に投入された場合であって、まだ審査請求していないならば審査請求することがあります。

 特許権成立するものであるかどうか、特許権成立する場合に特許権に基づく権利行使が可能になるかどうか特許庁の判断を受けるべく審査請求するものです。

 このように、同業他社による実施の動向は、どのタイミングで審査請求するかを検討する考慮要素の一つになります。

 

 

■ニューストピックス■

 

  • 「知的財産推進計画2025」を決定(政府)

政府は、「知的財産推進計画2025」を決定し、知的財産の国際的な競争力について初めて数値目標を盛り込み、国際ランキングで4位以内を目指す方針を示しました。

 

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/chitekizaisan2025/pdf/suishinkeikaku_gaiyo.pdf

 

同計画では、WIPO(世界知的所有権機関)が毎年発表している「グローバル・イノベーション指数(GII)」での目標順位を設定。AIの活用やトップレベルの研究者など海外人材の招致を通じて2035年までに4位以内を目指すとしています。過去の我が国の最高位は4位(2007年)で、2024年はスイスが首位、日本は13位でした。

 

また、今後、発明などへのAIの関与が増えることが予想されるとして、発明や創作の過程でAIを利用した場合の「発明者」の定義などについて早期に結論を得ることを求めています。海外のサーバを介した特許権侵害行為への対応なども検討し、必要な制度の整備を進める方針です。

 

日本の技術を国際標準にするための「新たな国際標準戦略」が策定されました。また、AIや環境・エネルギー、モビリティー(移動手段)といった8分野を「戦略領域」とし、専門人材の育成や官民連携の強化を通じて重点的に支援するとしています。

 

さらに日本市場における時価総額に占める無形資産の割合を2035年までに50%以上とする目標も設定しました。2020年時点の日本市場における無形資産割合は32%、米国市場は90%、中国市場は44%、韓国市場は57%です。

 

  • AIが作成した商標登録、現行制度で可否を判断(特許庁)

特許庁の商標制度小委員会は、AIを利用して作成した商標登録については、現行制度で登録の可否を判断する方向で検討しています。

 

https://www.jpo.go.jp/resources/shingikai/sangyo-kouzou/shousai/shohyo_shoi/document/t_mark_paper12new/02.pdf

 

現行の商標法は、特許法、意匠法とは異なり、自然人の創作物の保護を目的とするものではないとされています。したがって、自然人により創作されたものか、AI により生成されたものかに関わらず、従来の商標登録出願と同様、拒絶理由に該当しない限り、商標登録を受けることができるとされています。

そのため、小委員会では、AI生成物を含む商標について出願・権利行使する場合であっても、原則として、従来の商標登録出願や商標権と同様に扱う方向で検討しています。

また、他人の登録商標をAIに学習させることは、商標権の効力が及ぶ行為に該当せず、法律上問題ないとしています。

 

  • 「セキュリティ・クリアランス」法が施行、運用を開始(政府)

経済安全保障に関連する重要な情報を保護する「セキュリティ・クリアランス法」(重要経済安保情報保護活用法)が5月16日に施行され、制度の運用が始まりました。

 

https://www.cao.go.jp/keizai_anzen_hosho/hogokatsuyou/hogokatsuyou.html

 

セキュリティー・クリアランス法は、漏えいすると日本の安全保障に支障をきたすおそれがある国の情報を「重要経済安保情報」に指定し、民間も含めて信頼性が確保できる個人に対してのみアクセス資格(SC資格)を付与し、重要情報を取り扱える人を限定するものです。

対象となる情報は、サイバー攻撃の脅威への対策や日本が優位性を持つ技術に関わるもの、海外依存度の高い重要物資のサプライチェーンに関するものなどです。

また、情報を扱う人には本人の同意を前提に国が個人情報を調べることになります。

調べられる情報には、本人や家族の国籍や学歴、職歴のほか、犯罪歴、過去10年の精神疾患の治療やカウンセリング、飲酒のトラブル、クレジットカードの使用停止の有無などが含まれています。

 

  • 「AI新法」が成立、研究開発・活用を推進(政府)

AIの研究開発の促進と安全確保の両立を目指す「AI関連技術の研究開発・活用推進法」が参院本会議で可決、成立しました。

 

https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/index.html

 

AIの国際競争が激化する中、AI開発や規制に関して日本が国内法を整備したのは初めてです。

新法では、AI技術が経済発展の基盤と位置付け、司令塔として首相が本部長を務める「AI戦略本部」を設置し、「AI基本計画」を策定することを規定しました。

 

一方、AI技術の研究開発や活用が不正な目的で行われれば「犯罪への利用、個人情報の漏えい、著作権の侵害を助長する恐れがある」とも記述。国民の権利・利益を侵害する事案が生じた場合は国が調査し、事業者に指導・助言を行い、国民への情報提供など必要な措置を講じると定めました。事業者の責務として「国・地方公共団体の施策に協力しなければならない」との規定も盛り込みました。

 

  • 偽キャラクターグッズ対策委員会を発足(CODA)

日本のアニメやゲームなどの人気作品に登場するキャラクターの偽グッズ被害が海外で深刻化していますが、企業が単独で対策を取るのは難しいとして、業界団体の「CODA=コンテンツ海外流通促進機構」は、大手企業が共同で対策に取り組む「偽キャラクターグッズ対策委員会」を立ち上げました。

 

https://coda-cj.jp/news/2404/

 

アニメに登場するキャラクターなどは、個人や企業が創作した知的財産=「IP」と呼ばれ、関連グッズを展開するIPビジネスは、日本のコンテンツの世界的な人気の高まりとともに海外にも市場が広がっています。

一方、海外ではキャラクターを無断で使用したフィギュアなど、偽グッズの被害も相次ぎ、企業単独での対策は難しくなっています。そのため、「東映」「集英社」「スクウェア・エニックス」「バンダイ」など、アニメや漫画、ゲームなどのコンテンツを扱う大手企業9社とCODAは、共同で対策に取り組む「偽キャラクターグッズ対策委員会」を発足させました。

委員会は、偽グッズは主に中国が製造拠点で、ECサイトで流通も拡大しているとして、今後、現地当局と連携して摘発につなげるなど対策を強化していく方針を確認しました。

 

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発行元: 外堀知的財産事務所

弁理士・一級知的財産管理技能士 前田 健一

〒102-0085 東京都千代田区六番町15番地2

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