※中小企業「デザイン経営」の効果などを調査 外堀知的財産事務所 メールマガジン 2025年9月号
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2025年9月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
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┃ ☆知財講座☆
┃(20)日常業務での発明の発掘
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┃ ☆ニューストピックス☆
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┃ ■「Pocky(ポッキー)」が立体商標登録(江崎グリコ)
┃ ■中小企業における「デザイン経営」の効果などを調査(特許庁)
┃ ■オンライン送達制度の見直し、令和8年4月1日施行(特許庁)
┃ ■建設関連の保有特許200件超を開放(清水建設)
┃ ◆助成金情報 令和7年度外国出願費用の助成<第2回>(INPIT)
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特許庁はこのほど、「中小企業におけるデザイン経営の効果・ニーズに関する調査」を実施し、報告書をまとめました。
「デザイン経営」とは、デザインの力を企業価値向上のための重要な経営資源として活用するもので、近年、企業の競争力向上に寄与する経営戦略として注目されています。
今号では、報告書の中から「デザイン経営と知的財産の関係性」について取り上げます。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(20)日常業務での発明の発掘
【質問】
毎日のように製造を行い、毎日のように工夫を重ねています。このような毎日の仕事、作業の中から発明を発掘することはできるのでしょうか?
【回答】
なんらかの技術的な課題・問題点の存在を認識していて、それを解決する工夫を行った場合、何を発明したのかを認識、意識することは簡単です。しかし、毎日の工夫の積み重ねの中で、気づかないうちに発明を完成させていることがあります。そのようなものを埋もれたままにしておくのと、発明として発掘し、会社の知的財産として有効に活用していけるようになるのとでは、将来、大きな違いになります。発明発掘の一般的な手法を説明します。
<課題が明らかである場合>
解決手段の提案
毎日の製造工程・開発工程において、何らかの技術的な問題点・課題を認識できている場合には、それを解決するための手段、工夫をたくさん提案してもらいます。
提案してもらう際には、実現可能性(実現できそうか否か)、経済性(開発にどのくらいの費用がかかりそうか)、開発するのにどのくらいの期間を要しそうであるか、同業他社がすでに採用していそうな工夫であるかどうか、特許になりそうかどうか、等々の問題は一切気にせず、とにかくたくさん提案してもらいます。
解決手段の評価
提案を受けた多くの解決手段の一つひとつについて、その有効性などを評価します。
この際、評価が低くて次の工程に進まなかった提案についても、取り上げていた問題点・課題に対する解決策の一つとして提案され、評価を受けたことを記録に残しておくことが望ましいです。将来、何らかの技術的な問題点・課題が発生したときに解決策を検討する材料になることがあります。
次の段階の問題点・課題の把握
より高い評価を受けた解決手段を採用する場合、次にどのような問題点・課題が生じることになるかを検討します。
技術開発は、いわば、無限ループです。技術は、螺旋状に積み重ねられて次第に発展していくものです。何らかの技術的な問題点・課題を解決・克服するために何らかの解決手段を採用すると、その解決手段を採用したことに起因して新たに解決すべき問題点・課題が浮上してくるのが一般的です。
新たな解決手段の提案
上述した新たに浮上してきた問題点・課題を解決する解決手段を、上述したように、実現可能性、経済性、等々を問題にせずにたくさん提案してもらいます。
新たに提案された解決手段の評価
新たに提案を受けた多くの解決手段の一つひとつについて、その有効性などを評価します。
このように、解決する必要がある何らかの技術的な問題点・課題が最初から認識できている場合には、多数の解決手段の提案⇒提案された解決手段の評価⇒高い評価を受けた解決手段を採用した場合に生じる新たな問題点・課題の把握⇒把握された新たな問題点・課題に対する多数の解決手段の提案・・・という工程を繰り返すことで発明を発掘することができます。
このようにして発掘された発明は、当初に認識されていた何らかの技術的な問題点・課題を解決できるという効果を発揮できるものです。
このような発明発掘作業を行う際に、専門家である弁理士に参加してもらうことができますし、発掘した発明を採用して実施したときに他社が所有する特許権を侵害するおそれはないか、発掘した発明を特許出願する意義があるか、等々については、専門家である弁理士に相談できます。
<技術者の暗黙知として既に発明が完成している場合>
埋もれている発明の「見える化」
生産現場・開発現場などにいる技術者などが日々の生産・開発活動などで行っている工夫の中にきらりと光る発明が存在しているが、技術者などは「あたりまえのこと」と考えていて、発明であると認識していないことがあります。
このような場合、発明を「見える化」することが重要です。生産現場・開発現場などにいる技術者から聞き取りを行う、技術者の皆でディスカッションを行ってもらう等により、生産・開発工程にどのような工夫が加えられてきたのか、その経過を「見える化」します。どのような工夫を行うことによっていかなる問題点、課題が解決されたのか、どのような効果が上がるようになったのかが皆に明らかになるようにするものです。
生産・開発工程に様々な工夫がつぎ込まれていることがありますので、皆の記憶を一つ一つ掘り起こし、どのような工夫が採用されたのかを拾い出して、一人ひとりが採用したと考えている工夫についての認識を皆で共有できるようにします。
採用した工夫によって発揮されるようになった効果について、様々な工夫がつぎ込まれている場合、採用した工夫とそれによって発揮されるようになった効果についての認識が技術者同士の間で異なることがあります。採用した工夫とそれによって発揮されるようになった効果との対応関係が皆の共通認識になるように「見える化」します。
この際、採用しようとしたがうまくいかなかった工夫(なぜうまくいかないと判断されたのか)、考えつくだけはしたのだが試してみなかった工夫(試してみなかった理由)なども、「見える化」して社内での共通認識にしておくと、将来、何らかの技術的な問題点・課題が発生したときに解決策を検討する材料になることがあります。
「見える化」した工夫の評価
上述したようにして「見える化」した工夫の中で、発明として特許出願できるもの、会社内の技術的なノウハウとして蓄積する方がよいものを選別します。例えば、同業他社であってもいずれ考えつくことになるであろうと思われる工夫については、特許取得できるものならば、一日でも先に特許出願することが有利になります。
発明として特許出願できる可能性のあるものについては、技術的・経済的価値を高める上で更に改良・改善の余地はないのかを社内で検討したり、弁理士などの専門家に相談して、この工夫は他社が所有している特許権を侵害しているものではないか、特許出願する意義があるか等々や、発明内容を、より普遍化し、効力範囲の広い発明概念にすることについて更なる検討を行うことができます。
製造・開発現場で働いている人たちは毎日のことなので「当たり前のこと」と思っていることの中に発明や、発明の種が埋もれていることが多くあります。そこで、社内に埋もれている発明を「見える化」する際の上述した聞き取りや、ディスカッションなどに新鮮な視点から発明を認識できる弁理士などの専門家に参加してもらうのも有効です。
■ニューストピックス■
- 「Pocky(ポッキー)」が立体商標登録(江崎グリコ)
江崎グリコ株式会社は、チョコレート菓子「Pocky(ポッキー)」の細長いスティックの形状が、立体商標として登録(第6951539号)されたと発表しました。
https://www.glico.com/jp/newscenter/pressrelease/47146/
(登録第6951539号)
立体商標は、一定の独自性を備える商品の立体的形状を商標として保護する制度です。文字やロゴがなくても登録することができますが、消費者が商品の形状を見ただけでブランドを認識できることを証明する必要があります。
ポッキーは、細長いスティック状の商品形状に対し、チョコレート部分が約8割、プレッツェル部分が約2割のバランスで構成され、1966年の発売以来、一貫した形状を維持しています。
同社が2023年に実施したアンケート調査では、90%以上の消費者が「商品形状を見ただけでポッキーと認識できる」という結果が示されました。さらに、国内外での販売実績やテレビCM、パッケージデザインの統一性なども審査において重要な証拠となりました。
- 中小企業における「デザイン経営」の効果など調査(特許庁)
特許庁はこのほど、「中小企業におけるデザイン経営の効果・ニーズに関する調査」を実施し、報告書をまとめました。
https://www.jpo.go.jp/introduction/soshiki/design_keiei/kouka.html
「デザイン経営」とは、デザインの力をブランドの構築やイノベーションの創出に活用する経営手法であるとされています。
特許庁は2023年に刊行した「中小企業のデザイン経営ハンドブック2」で、技術のアイデア(発明・考案)や物品などのカタチ(意匠)、ロゴ・マーク・商品名(商標)、営業・技術情報(ノウハウ)、写真・動画・記事などのコンテンツ(著作物)といった自社固有の経営資源を「幅広い知財」として認識し、それを経営に生かしていく活動(知財アクション)がデザイン経営の推進力になるとしています。
デザイン経営を推進している特許庁が、デザイン経営を継続している中小企業に対して知財専門家によるインタビューを実施し、デザイン経営と知的財産の関係性について、インタビューから得られた知見をもとに、関係性が明確となった具体的な事例をこの報告書で紹介するとされています。
デザイン経営を継続する企業は、可視化されていなかった固有の経営資源(暗黙知を含む知的資産=人材や組織力、経営理念、顧客とのネットワーク、技能)に着目し、それを可視化=「形式知化」することで新たな知的財産を生み出している。このプロセスを知的創造サイクルの「創造・保護・活用」の3段階に照らせば、デザイン経営は知的財産の「創造」を促進する有効なアプローチと位置付けられると報告しています。
「知的財産権(=新しい技術のアイデアや物品の形状、ロゴ・マーク・商品名、営業・技術情報、写真・動画・記事などのコンテンツといった『価値のある情報(形式知)』」の「権利化」に関する支援と、その前段階となる「形式知化」のプロセスに特に効果を発揮するデザイン経営の支援プログラムとは、中小企業の知財支援策の両輪となり得る。さらに、形式知化のプロセスは金融機関など中小企業支援に関わる他機関にとっても関心の高い領域であり、支援機関間の連携強化にも貢献すると期待される、と報告されています。
- オンライン送達制度の見直し、令和8年4月1日施行(特許庁)
「不正競争防止法等の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令」が公布され、オンライン送達制度の見直しが令和8年4月1日に施行されます。
https://www.meti.go.jp/press/2025/08/20250808001/20250808001.html
具体的には、査定の謄本等が特許庁の専用サーバに格納されてから10日間受け取りがない場合、送達したものとみなす運用が始まります。
現行制度では、特許庁からの書類(拒絶査定など)の発送は、特許庁の専用サーバに書類のデータが格納された後、出願人等がこれを確認し、出願人等が使用するパソコンへの記録が完了した時点をもって到達したものとみなされています。
特許庁の専用サーバに書類のデータが格納されてから、一定期間内に書類を受け取らない(使用するパソコンに記録しない)出願人などに対しては、紙に切り替えて書類を発送していますが、今回の改正により、特許庁の専用サーバに書類データが格納されて出願人が受け取り可能になってから10日以内に受け取らない場合、送達したものとみなすことになります。
- 建設関連の保有特許200件超を開放(清水建設)
清水建設株式会社は、建設産業全体の技術を底上げするため、自社で特許を保有する200件超の建設関連技術を社外に開放し、低額
の費用で実施許諾を付与する取り組みを開始しました。
https://www.shimz.co.jp/company/about/news-release/2025/2025022.html
開放対象の特許技術は、同社のサイト上で公開し、想定ライセンシーの事業形態別に分類したうえで特許項目、実施許諾条件(年間実施料)等を掲示しています。特許の相互利用を建設業界に促すことで、重複投資の抑制や効率的な技術開発を図り、建設産業全体の技術力向上につなげる方針です。
◆助成金情報 令和7年度外国出願補助金<第2回>(INPIT)◆
INPIT(独立行政法人工業所有権情報・研修館)は9月1日から令和7年度「外国出願補助金」(第2回)の募集を下記のとおり開始します。
https://www.inpit.go.jp/content/100885237.pdf
第2回公募期間:9月1日(月)から9月22日(月)17:00まで
【助成の概要】
外国での特許、実用新案、意匠又は商標の出願・権利化を予定している中小企業、中小スタートアップ企業、小規模企業、大学等に対し、外国出願に要する費用の1/2を助成。
既に日本国特許庁に対して行っている出願について、パリ条約に基づく優先権を主張して外国特許庁等へ出願するもの等が補助対象。
【対象経費】
外国特許庁への出願料、国内・現地代理人費用、翻訳費用 等
【補助率・上限額】
補助率:1 / 2
上限額 1企業あたり:300万円(※大学等は1法人当たりの上限額なし)
1案件あたり:特許 150万円
実用新案・意匠・商標 それぞれ60万円
冒認対策商標 30万円(冒認対策商標とは、冒認出願の対策を目的とした商標出願)
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発行元: 外堀知的財産事務所
弁理士・一級知的財産管理技能士 前田 健一
〒102-0085 東京都千代田区六番町15番地2鳳翔ビル3階
TEL:03-6265-6044
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