外堀知的財産事務所 メールマガジン 2024年8月号

外堀知的財産事務所メールマガジンを発行しましたので、ブログへ転記いたします。

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◇◆◇ 外堀知的財産事務所 メールマガジン ◇◆◇

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このメルマガは当事務所とお取引きいただいている皆様、または当事務所とご面識のある皆様にお届けしています。

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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━

                       2024年8月号

 

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┃ ◎本号のコンテンツ◎

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┃ ☆知財講座☆

┃(7)特許表示の注意点

┃ ☆ニューストピックス☆

┃ ■J-PlatPatにおける特許文献アクセス状況(INPIT)

┃ ■生成AI関連の特許出願件数、中国が1位(WIPO)

┃ ■研究開発費を増額した企業は49.2%(文部科学省調査)

┃ ■「ひこにゃん」の商標使用を無償化(滋賀県彦根市)

┃ ■「令和6年度著作権テキスト」を公開(文化庁)

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工業所有権情報・研修館(INPIT)は、令和5年度の特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)における特許文献へのアクセス状況を取りまとめました。J-PlatPatのアクセス状況を公表することはINPITにとって初の取組みということです。「注目される特許や技術のトレンドの把握に活用されるとともに、知財が身近でない方の産業財産権情報への関心の拡大を図ること」が公表の狙いの一つにあるとされています。

今号では、INPITが公表したJ-PlatPatにおける特許文献へのアクセス状況を取り上げます。

 

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃

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(7)特許表示の注意点

 

【質問】

特許出願を行ったので特許出願済の発明が採用されている製品に「特許出願中」と表示してよいですか?

「虚偽表示はやってはいけない」と聞いたことがあるのですが、どんなことが「虚偽表示になるのでしょうか?

 

【回答】

現実に特許出願中の発明が採用されている物に「特許出願中」と表示することは問題ありません。

ところで、特許法には特許表示に関する規定がありますが、特許出願中の表示に関する規定はありません。

特許表示に関する規定を紹介しながら「虚偽表示」について説明します。

 

<特許表示>

特許法では次のように規定されています。

「特許権者は、物の特許発明におけるその物、もしくは物を生産する方法の特許発明におけるその方法により生産した物(以下「特許に係る物」という。)又はその物の包装(容器を含む)に、その物又は方法の発明が特許に係る旨の表示(以下「特許表示」という。)を付するように努めなければならない。」(特許法第187条)。

「特許に係る物に特許表示を付することは、その物が特許権の対象であることを明示し、権利侵害を未然に防ぐ効果を有する」(特許法逐条解説)と考えられています。

「付さなければならない」ではなく「付するように努めなければならない」ですので、本条に違反しても罰則等の制限はありません。

すなわち、特許に係る物に特許表示をしていなかったからといって、第三者による特許権侵害行為を特許権に基づいて排除する際、損害賠償請求が難しくなるというようなことは我が国ではありません。

ただし、外国では異なる取り扱いがされることがあります。外国での取り扱いについては弁理士にご相談ください。

特許表示の仕方については「物の特許発明の場合は『特許』の文字と特許番号、物を生産する方法の特許発明の場合は『方法特許』の文字と特許番号を表示すること」とされています(特許法施行規則第68条)。

そこで、特許第○○○○号や、方法特許第○○○○号と表示するのが特許法で推奨されている特許表示になります。

 

<虚偽表示>

「特許に係る物以外の物又はその物の包装に特許表示又はこれと紛らわしい表示を付する行為」などは、虚偽表示にあたるとして禁止されています(特許法第188条)。

特許法逐条解説では、ある物について特許がされていない場合、たとえば、ある鉛筆がなんら特許に係らない物である場合に、「その鉛筆に特許表示を付する行為」、「特許表示を付した鉛筆を譲渡する行為」、「鉛筆を製造させるため広告にその鉛筆が特許権の対象である旨を表示する行為」、「実際には製造方法が特許の対象ではないにもかかわらず広告にその鉛筆の製造法が特許権の対象である旨を表示する行為」が虚偽表示に該当する具体例として紹介されています。

「〔虚偽表示の禁止〕の規定(特許法第188条)に違反した者は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処する」とされています(特許法第198条 虚偽表示の罪)。

したがって、特許出願日から20年が経過することで特許権が消滅した、あるいは、特許権を維持するための特許料(特許維持年金)の特許庁への納付を中止したことで特許権が消滅したならば、速やかに、「特許第○○○○号」等の特許表示を削除する必要があります。

特許法が推奨している特許表示は「特許第○○○○号」ですから、よく目にする「PAT.○○○○」(「PAT.」は「Patent」(特許)の省略形であると思われます。)という表示は特許法が推奨している特許表示ではありません。

「特許表示と紛らわしい表示を付する行為」は虚偽表示であるとされていますが、現存している特許権の対象になっている物に相違ないならば「PAT.○○○○」という表示を特許表示として使用していても「虚偽表示に該当する」との指摘を受けることは無いと思われます。

 

<特許出願中の表示>

特許出願中の表示に関して特許法には規定がありません。

一方、商品が特許出願を行っている新規な技術を採用したものであることを積極的に宣伝したり、同業者が直ちに後追い商品を市場に出すことを牽制するという意味で、特許出願中の表示を行うことには意義があると思われます。

特許法に規定が存在していないので特許法で推奨されている特許出願中の表示はありませんが、「特許出願中」という表示や、「PAT.P」という表示を目にすることがあります。「PAT.P」は「Patent Pending」の省略形であると考えられています。

特許表示では虚偽表示が禁止されていて刑事罰の対象にまでなっていますので、特許出願中の表示を行う場合にも虚偽の表示にならないように注意を払うべきと思われます。

日本の現状では、特許表示として「PAT.○○○○」という表示を用いることが許容されていますので、現実に特許出願を行っている物であれば「特許出願中」あるいは、「PAT.P」という表示を行うことが許容されると思われます。

ただし、所定の期間内に審査請求を行わなかったことで特許出願が消滅したあるいは、特許庁の審査で「特許を認めることができない」とする「拒絶査定」を受け、確定して特許出願が消滅した場合などでは、速やかに「特許出願中」の表示を削除する必要があります。

また、古い判決ですが「特許出願済」という表示は「特許に係ることの表示に紛らわしい表示」と判断されたことがあります(大審院昭5年10月12日)。そこで「特許出願済」という表示よりは「特許出願中」という表示の方が望ましいと思われます。

 

<「国際特許」という表示>

ときどき「国際特許取得」、「国際特許」という表示を目にすることがあります。

特許協力条約(PCT)に加盟している世界の複数の国に同時に特許出願を行ったという効果を発揮させることのできる「国際出願」というものは存在していますが「国際特許」というものは存在していません。

日本国なら日本国特許庁、米国なら米国特許庁のように、世界各国の特許庁でそれぞれ別個独立に審査を受け、特許性が認められて各国ごとに成立した特許がその国の領域内において効力を発揮するのが原則で、日本国特許、米国特許という各国ごとの特許しか存在していません。

「国際特許取得」、「国際特許」という表示は、おそらく、「国際出願」を行ったことを誤解し、間違って表示しているのではないかと思われます。

 

 

■ニューストピックス■

 

●「J-PlatPat」における特許文献アクセス状況を公表(INPIT)

 

工業所有権情報・研修館(INPIT)は、令和5年度の特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)における特許文献へのアクセス状況を取りまとめました。J-PlatPat のアクセス状況の公表は初の取り組みで、注目される特許や技術のトレンドの把握に活用することができるとされています。

https://www.inpit.go.jp/j_platpat_info/access_r05-02.pdf

 

J-PlatPatにおける特許文献へのアクセス数は、特許文献に記載されている技術自体やビジネス上の注目度等、社会的な関心を示唆する一つの指標と言えます。今回、INPITでは、特許文献へのアクセス状況について、「登録特許アクセスランキング」「出願年分布」「テーマコード上位10テーマ」「FI(サブクラス)上位10分類」「FI(メイングループ)上位10分類」の観点でまとめました。

 

令和5年度分のアクセス状況の登録特許ランキングによると、1位となったのは、コナミデジタルエンタテインメントの「ゲーム管理装置及びプログラム」(特許5814300)。2位はコクヨの「消しゴム」(特許4304926)。このほか、デジタルスポーツで使われる「スポーツ交戦装置」(特許6062592)、切り餅の特許権をめぐって裁判で争われた越後製菓の「餅」(特許4111382)などが上位に入っています。

 

<登録特許アクセスランキング>

1位 ゲーム管理装置及びプログラム 株式会社コナミデジタルエンタテインメント

2位 消しゴム コクヨ株式会社

3位 スポーツ交戦装置 本村 隆昌

4位 音と光を同時に発する無電源型発光装置 独立行政法人産業技術総合研究所

5位 車両用タイヤのトレッド部  山田 みゆき

6位 抗ウイルス及び他の効果を有するウエアラブル光線治療器 ソールエトルーナ ホールディングス,インコーポレーテッド

7位 ジエステル及び油剤、並びに化粧料及び皮膚外用剤 日本精化株式会社

8位 餅 越後製菓株式会社

9位 冷菓及びその製造方法  株式会社ロッテ

10位 履物  岸原工業株式会社

 

●生成AI関連の特許出願、中国が1位(WIPO)

 

世界知的所有権機関(WIPO)は、「生成AI(人工知能)に関する特許動向報告書」を発表しました。

https://www.wipo.int/pressroom/en/articles/2024/article_0009.html

 

それによると、2014-23年の10年間の世界の生成AI関連の特許出願件数は5万4000件に達しています。国別の特許出願件数をみると、中国が3万8210件で1位、2位は米国の6276件、3位は韓国の4155件、4位は日本の3409件でした。

5位はインドの1350件で、対前年比56%増と高い伸び率を記録しました。中国の出願件数は、米国の約6倍に上り、世界全体の約7割を占めています。

生成AIに関する特許は急増しており、2014年の出願件数は733件でしたが、23年には1万4000件超となり、この1年だけで全体(2014-23年)の25%以上を占めています。

 

企業別では、IT大手の騰訊控股(テンセント)、保険大手の中国平安保険集団、インターネット検索大手の百度(バイドゥ)と中国系がトップ3を独占しました。米国のIBMが5位、韓国のサムスン電子が7位、日本はNTTが13位、ソニーグループが20位でした。

 

●研究開発費を増額した企業は 49.2%(文部科学省調査)

 

文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は、「民間企業の研究活動に関する調査」の2023年度調査結果を取りまとめました。

民間企業の研究活動に関する調査報告2023 [NISTEP REPORT No.203]を公表しました(6/26)

 

2022 年度及び 2023 年度における研究開発費の増減(いずれも前年度と比較した増減)をみると、社内研究開発費を前年度より増額したと回答した割合が 49.2%と最も多く、減額した割合(33.7%)や前年度と同額とした割合(17.2%)を上回っています。また、2023年度の予定や方針についても、前年度よりも増額すると回答した割合(34.1%)が最も高いことが分かりました。

また、新卒の研究開発者を採用した企業の割合は2022年度に42.0%であり、2年連続で減少。新卒の博士課程修了者の採用は4年連続で減少していましたが、2022年度は増加に転じました。採用時に修士号取得者を優遇する企業の割合は58.8%、博士号取得者を優遇する企業の割合は37.7%でした。

また、研究開発者としての就業体験に関するインターンシップを実施する企業の割合は、大学学部等、大学院修士課程、博士課程のうち、大学学部等の 32.3%が最多でした。

 

●「ひこにゃん」の商標使用を10月から無償化(滋賀県彦根市)

 

滋賀県彦根市は、人気キャラクター「ひこにゃん」の商標使用を本年10月1日から無償化すると発表しました。

https://www.city.hikone.lg.jp/kakuka/kanko_bunka/5/3/4_1/3_1/24329.html

 

(商標登録第5104692号)

 

彦根市は「ひこにゃん」について、これまでイラストや写真を商品などに使用する場合、販売業者から使用許諾料として売り上げ見込み額の3%を徴収していましたが、さらなる商標使用の拡大と新規商品の発掘を図るため、商標使用料の無償化を図る実証実験を行いました。

その結果、有償を継続した場合と比較して、新規契約件数が326件(1.41倍)、販売予定総額が4億1741万円(1.52倍)増加したとの報告が得られ、彦根市および「ひこにゃん」のブランディングの観点からも、商標使用を無償化した方が新たな商品開発の拡大や、地域経済への波及効果が期待できると判断しました。

使用できるデザインは全部で45種類で、無償化の場合も使用には手続きが必要となります。

 

●「令和6年度著作権テキスト」を公開(文化庁)

 

文化庁は「令和6年度著作権テキスト」を公開しました。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/textbook/index.html

 

同テキストは、著作権の基本的な情報のほか、著作物を創作した場合の注意点、他人の著作物を利用したい場合、相談窓口一覧など、著作権に関する情報が網羅的に掲載されています。

また、近年の著作権法改正についても、わかりやすく解説しています。

<令和5年改正>

・著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設(未管理著作物裁定制度)

・行政手続等に係る権利制限規定の整備

・損害賠償額算定方法の見直し

<令和4年改正>

・裁判手続に係る権利制限規定の整備

<令和3年改正>

・図書館関係の権利制限規定の見直し

・放送番組のインターネット同時配信等に係る権利処理の円滑化

 

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発行元: 外堀知的財産事務所

弁理士 前田 健一

〒102-0085 東京都千代田区六番町15番地2  鳳翔ビル3階

TEL:03-6265-6044

E-mail mail@sotobori-ip.com

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