※AI開発者も共同発明者として検討 外堀知的財産事務所 メールマガジン 2025年2月号

外堀知的財産事務所メールマガジンを発行しましたので、ブログへ転記いたします。

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◇◆◇ 外堀知的財産事務所 メールマガジン ◇◆◇

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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━

                       2025年2月号

 

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┃ ◎本号のコンテンツ◎

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┃ ☆知財講座☆

┃ (13)特許権侵害を発見したら?

┃ ☆ニューストピックス☆

┃ ■AI開発者も共同発明者として認める方向で検討(政府)

┃ ■標準必須特許の使用料めぐり中国をWTOに提訴(EU)

┃ ■リヤド意匠法条約が採択

┃ ■改正意匠法に基づく関連意匠の出願状況(特許庁)

┃ ■特許証・登録証の再交付請求の要件を緩和(特許庁)

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政府は、人工知能(AI)を使った発明について、AI開発者も共同発明者として認める方向で検討しています。AI開発者が特許の付与を受ける発明者として認められるか否かはこれまで明確になっていませんでした。具体的な内容は、2025年6月までに策定予定の「知的財産推進計画」で示される見通しです。

 

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃

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(13)特許権侵害を発見したら?

 

【質問】

 当社の特許権を侵害しているのではないかと思われる他社の製品を発見しました。当社の特許品の競合品になっていますので販売をやめさせたいのですが、どのようにすればよいでしょうか?

 

【回答】

 特許権侵害品が特許発明品と競合することで特許発明品の売り上げが落ちる等の事態になることがありますので早急な対応が必要です。ただし、最終的には他社を被告として訴訟に臨むこともあり得ますから慎重な対応が必要になります。

 

■自社の特許権を確認する■

 そもそも特許権が存在していなければ特許権に基づく権利を行使することはできません。特許権の効力(特許発明を独占排他的に実施(例えば、製造、販売)することができ、特許権侵害行為に対して差止請求(特許法第100条)、損害賠償請求(民法第709条)することができる)は、特許権が成立してから発生します。

 特許権侵害していると思われる他社の製品(以下「侵害被疑品」といいます)に関しては、特許権が成立して以降の第三者による製造・販売行為だけが特許権侵害ということになります。

 ところで、「当社のこの製品に採用されている発明に特許を取得していたはずだが・・・」と認識されていても、特許権を維持するために特許庁へ毎年納付しておく必要がある特許料(特許維持年金ということがあります)の納付を中止していたことで、特許出願の日から原則として20年を越えない期間存続し続けるはずの特許権が既に消滅していたということがあり得ます。

 そこで、そもそも、自社の特許権は存続しているのかという点を確認する必要があります。

 

■侵害被疑品に関する詳細な情報収集■

 侵害被疑品が特許発明の技術的範囲に属する場合に初めて特許権に基づく権利行使が可能になります。侵害被疑品が特許発明の技術的範囲に属するか否かは非常に微妙な問題で、専門家である弁理士等に相談し、慎重な判断を受ける必要があります。

 侵害被疑品を購入してきて分解することで特許発明が採用されていることを簡単に把握できるものであるならば、市場で販売されている侵害被疑品を購入して弁理士のもとに持参し、そこで分解して説明し、判断を受けることが可能でしょうが、そうでない場合には、非常に難しくなります。

 侵害被疑品を販売している会社が侵害被疑品を宣伝・広告するために発行している広告物・パンフレット、WEBサイトでの製品紹介、侵害被疑品の取扱説明書、侵害被疑品を販売している会社が展示会などにおいて行った製品説明、等々、侵害被疑品が特許発明の技術的範囲に属するか否かを判断する上で必要と思われる情報を可能な限りたくさんの集めることが望ましいです。

 また、侵害被疑品が特許権侵害品に相当すると判断して販売行為の停止を求める警告書を配達証明郵便などで相手方に届けることにする場合には、将来、特許権侵害行為差止請求訴訟、特許権侵害行為損害賠償請求訴訟に臨むことが考えられます。そこで、侵害被疑品が販売開始された時期、侵害被疑品が販売されている場所、侵害被疑品の販売態様、侵害被疑品の販売価格、侵害被疑品のおおよその販売数予測、等々の情報も可能であれば収集することが望ましいです。

 

■侵害被疑品と特許発明との詳細な対比■

 侵害被疑品を販売している他社に対して「特許権侵害行為になりますので販売を中止してください。」というような内容の警告書などを配達証明郵便などで届ける場合、これを受け取った他社は大きな衝撃を受けるのが一般的です。

 特許権侵害は差止請求の対象になりますので、販売行為を中止する必要が生じ、場合によっては、製造済の製品の廃棄、製造に供した設備の除去まで請求されることがあり得ます(特許法第100条2項)。また、特許権侵害品に当たると認められた侵害被疑品の販売によって特許権者が損害を受けていた場合にはその損害を賠償する必要が生じます(民法第709条)。

 上述の警告書をいきなり受け取った他社は大きな衝撃を受けることになりますから、特許権者の誤解・誤認で、明らかに特許権侵害にならない場合、警告書の文面・内容によっては、警告書を受け取った他社との関係が悪化することすら起こり得ます。

 そこで、侵害被疑品が、特許発明の技術的範囲に入り、特許権侵害品に相当するものとなるのであるかどうかについては慎重な上にも、慎重を期して検討することが望ましいです。

 特許権侵害行為差止請求訴訟に臨む場合、裁判所で、侵害被疑品が特許発明の技術的範囲に入り、特許権侵害品に相当するものであることを、侵害被疑品と特許発明の構成とを詳細に対比して立証しなければなりません。

 上述した警告書を送付する場合でも、侵害被疑品と特許発明の構成とを詳細に対比して特許権侵害品に相当するものであることを詳細に説明することが望ましいです。

 侵害被疑品と特許発明との対比が不十分な状態で「特許権侵害行為になりますので販売を中止してください。」等の強い主張で臨み、「当社製品は御社の特許発明の構成要件の全てを充足するものではないので特許権侵害に当たらず、お申し越しの要望にはお応えしかねます。」というような回答を受けた場合には、特許権侵害行為差止請求訴訟に出て裁判所で十分な主張・立証ができるのか?ということになり、前記のような回答を受け取っただけで終わりにしてしまうことすらあります。

 特許発明の構成と詳細な対比を行うことができる程度に侵害被疑品の構造・構成を把握することができない場合、例えば、「警告書」という表題ではなく「問い合わせ」というような形式にし、侵害被疑品の構成を問い合わせ、他社が「特許権侵害でない」と判断するときにその理由を説明していただくようにすることもあります。

 また、侵害被疑品を販売している会社と日ごろの付き合いがあり、話し合いができるならば、警告書のような書面で対応するのでなく、話し合うことで解決できることもあります。

 なお、侵害被疑品を製造している会社に警告書を送るのであればともかく、侵害被疑品の製造元ではなく、販売店に対して警告書を送り付ける場合、その警告書の内容次第では、「特許権侵害品に当たる」という主張が成り立たなかったときに、侵害被疑品の製造元から、営業誹謗行為(不正競争防止法第2条1項15号)であるとして訴えられてしまうことすらありますので注意が必要です。

 

■所有している特許の有効性の確認■

 侵害被疑品が特許発明の技術的範囲に入り、特許侵害品に相当すると判断することができ、送付した警告書への回答次第では特許権侵害差止請求訴訟に臨むことを考えるときには、権利行使の根拠になる特許権の有効性を確認することが望ましいです。

 訴えを受けた会社(被告)が、訴訟において無効の抗弁(特許権の侵害に係る訴訟において、当該特許が特許庁での特許無効審判により無効にされるべきものと認められるときは、特許権者は相手方に対しその権利を行使することができない(特許法第104条の3)を申し立て、これが裁判所で認められてしまうことがあるからです。

 特許権は特許庁の審査を経て成立していますから特許を無効にする理由(先行技術文献等)が存在することは多くありませんが、特許庁が把握できなかった業界内での情報(業界紙・誌など)を根拠にして特許が無効にされることがあります。

 このため、出訴まで考慮されるのであれば、所有されている特許権の有効性を念のためにご確認されることをお勧めします。

 

■専門家へ相談を■

 「他社の製品が当社の特許権を侵害している」と思われる場合、この事態への対応は慎重に、なおかつ、スピーディに行うことが望ましいといえます。侵害被疑品に関する十分な情報を収集して弁理士などの専門家に相談することをお勧めします。

 

 

■ニューストピックス■

 

  • AI開発者も共同発明者として認める方向で検討(政府)

城内実・内閣府特命(知的財産戦略、科学技術政策)担当大臣は、人工知能(AI)を使った発明について、AI開発者も共同発明者として認める方向で検討するとの意向を表明しました。AI開発者が特許の付与を受ける発明者として認められるか否かはこれまで明確になっていませんでした。具体的な内容は、2025年6月までに策定予定の「知的財産推進計画」で示される見通しです。

https://www.gov-online.go.jp/press_conferences/minister_of_state/202501/video-292491.html

 

現在の特許法では、「発明者は自然人に限る」として、AIそのものは発明者として認めていません。AIが特許法で規定された「発明者」に該当するかどうかが争点となった「ダバス事件」では、日本を含む多くの国で、発明者を自然人に限定するという判決が下されています。この事件を契機に現在、各国でAI発明の法的取り扱いが議論されています。

米国特許商標庁(USPTO)では、昨年2月、「AI支援発明に関する発明者ガイダンス」を策定。同ガイダンスでは AIの支援を受けた発明であったとしても、発明着想に貢献した自然人は発明者になり得ることを明確にしています。

https://www.uspto.gov/subscription-center/2024/uspto-issues-inventorship-guidance-and-examples-ai-assisted-inventions

 

特許庁によると、現時点では、AIが自律的に発明を創作する事例は確認されていませんが、今後、技術の進展により、この状況が変わる可能性があります。そのため、発明過程でAIを活用した場合の進歩性の判断や発明者の認定基準といった課題について、現在、特許庁の有識者会議で検討を進めています。

 

現行制度では、人が課題設定やアイデアを出して、AIが化学式などを組み合わせて創作した発明の場合、真の発明者の認定(発明者適格性)などは明確になっていません。特許権が付与される発明は、創作過程に人が関与したものに限られるため、有識者会議では、AIを使った発明の特許取得には人の関与がどの程度必要になるかなどについて検討する方針です。

 

今後、AIを用いた発明がより広範囲において出願されることが予想される中、政府は、国際的な知財制度の動向を注視しつつ、特許法の解釈の変更も含めた対応を検討しています。

 

  • 標準必須特許の使用料めぐり中国をWTOに提訴(EU)

欧州連合(EU)の欧州委員会は、中国政府がEUの標準必須特許(SEP:standard essential patent)をめぐり、特許使用料を不当に引き下げているとして、世界貿易機関(WTO)に提訴したと発表しました。

https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_25_293

 

欧州委員会によると、中国企業は、通信技術などのハイテク分野で不当に低い標準必須特許使用料で欧州企業の技術を利用しており、WTO協定違反に当たるとしています。

「標準必須特許」とは、標準規格に準拠した製品の製造やサービスの提供を行う際に必ず実施することとなる特許権です。通信分野では高速大容量規格の「5G」技術などが該当します。

欧州にはエリクソン(スウェーデン)やノキア(フィンランド)といった世界的な通信機器メーカーが「5G」に関連する特許を多く保有していますが、中国政府は、特許権者の承諾を得ないまま特許使用料を低く設定しているとしています。

 

  • リヤド意匠法条約が採択

サウジアラビア・リヤドでこのほど開催された外交会議で、「リヤド意匠法条約」が採択されました。

https://www.jpo.go.jp/news/kokusai/wipo/riyadh-design-law-treaty.html

 

この国際条約は、各国で異なる意匠登録、出願手続を調和・簡素化することにより、出願人の負担を軽減することを目的としています。

特許法条約(PLT)と商標法に関するシンガポール条約(STLT)に次ぎ、リヤド意匠法条約(DLT:Design Law Treaty)が採択されたことにより、産業財産権の主要3法に関する国際条約がすべて確立されたことになります。

 

条約には、グレースピリオド(新規性喪失等の例外)や出願・登録意匠の非公表の維持(秘密意匠制度)、手続期間を徒過した場合や権利を喪失した場合等に一定の条件下で提供される救済措置などが盛り込まれています。

【条約の主な内容】

① 出願及び申請時に官庁が課すことができる要件

② グレースピリオド(新規性喪失等の例外)

③ 出願・登録意匠の非公表の維持(秘密意匠制度)

④ 手続救済措置

(a) 官庁が指定する手続期間の延長

(b) 意匠出願又は登録に関する権利回復

(c) 優先権主張の訂正・追加

(d) 優先権回復

 

本条約は、15の国又は政府機関が批准書又は加入書を寄託した後3か月で効力を生じることになっており、日本で批准する際には意匠法の改正が行われる予定です。

 

  • 改正意匠法に基づく関連意匠の出願状況(特許庁)

特許庁は、改正意匠法に基づく関連意匠の出願状況を公表しました。それによると、本年1月6日時点において、19,697件(本意匠の公報発行前の出願が15,816件、本意匠の公報発行後の出願が3,881件)の関連意匠が出願されました。

https://www.jpo.go.jp/system/design/gaiyo/seidogaiyo/document/isyou_kaisei_2019/shutsugan-jokyo.pdf

 

関連意匠は、デザイン開発において一つのコンセプトから多くのバリエーションの意匠が継続的に創作されるという実情に基づき、同一出願人による一群のデザインを同等の価値を有するものとして保護することを目的としたものです。

本意匠の意匠公報発行後(基礎意匠の出願から10年を経過する日前まで)も関連意匠の出願が可能です。この制度を利用することで、当初製品投入後に追加的にバリエーションを開発し、一群のデザインとして包括的に意匠権を取得することもできます。

 

  • 特許証・登録証の再交付請求の要件を緩和(特許庁)

特許庁は、特許証や登録証の再交付請求について、令和7年1月1日以降は理由を問わず請求することができるよう要件を緩和しました。

https://www.jpo.go.jp/system/process/toroku/tokkyoshou_saikoufu.html

 

これまで特許(登録)証の再交付にあたっては、「特許(登録)証再交付請求書」に「汚損・破損・紛失」のいずれかの理由を明示する必要がありました。また、汚損・破損の場合には、特許(登録)証を提出(返却)することが求められていました。

本年1月からは理由を問わずに再交付請求をすることが可能になるとともに、汚損・破損の際に求められていた特許(登録)証の提出も不要となりました。

 

書面手続のデジタル化の推進により、特許(登録)証は受領者の選択によりオンラインで受領することも可能となりましたが、オンラインで受領した者から、紙での再交付を請求したいという問い合せが度々寄せられていることや、オンラインで受領した特許(登録)証は受領者の判断で制限なく紙で印刷できる状況であることなどから、再交付請求にあたっての要件(汚損、破損、紛失)が撤廃されました。

特許(登録)証の再交付請求に係る提出書類及び料金については特許庁HPでご確認ください。

 

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発行元: 外堀知的財産事務所

弁理士・一級知的財産管理技能士 前田 健一

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