外堀知的財産事務所 メールマガジン 2024年7月号

外堀知的財産事務所メールマガジンを発行しましたので、ブログへ転記いたします。

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◇◆◇ 外堀知的財産事務所 メールマガジン ◇◆◇

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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━

                       2024年7月号

 

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┃ ◎本号のコンテンツ◎

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┃ ☆知財講座☆

┃(6)特許を受ける権利と特許出願人になれる者

┃ ☆ニューストピックス☆

┃ ■国際標準化めぐり新国家戦略(知的財産推進計画2024)

┃ ■AI技術の国際競争が激化(令和6年版科学技術白書)

┃ ■iPS特許の使用めぐり研究者と理研が和解

┃ ■知財エコシステムで活躍する女性人材の事例集(特許庁)

┃ ◆助成金情報 令和6年度「中小企業等海外侵害対策支援事業」

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特許庁は、日本貿易振興機構(ジェトロ)を通じて、海外展開に際して模倣品被害や自社商標の抜け駆け出願など、産業財産権の係争を抱える中小企業に向けた支援事業(模倣品対策支援、冒認商標無効・取消係争支援、防衛型侵害対策支援)を実施しています。

今号では、令和6年度「中小企業等海外侵害対策支援事業」の概要を紹介します。

 

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃

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(6)特許を受ける権利と特許出願人になれる者

 

【質問】

特許出願を他の会社と一緒に行いたいのですが、可能ですか?一緒に出願することにした場合、注意しておくべきことはありますか?また、特許出願を行った後に特許出願人の名義を変更することは可能ですか?

 

【回答】

特許出願を他社と共同で行うことは可能ですし、特許出願後に特許出願人の名義を変更することも可能です。

 

■特許を受ける権利■

発明が完成すると、その完成した発明について特許権の付与を求めて特許庁に出願し審査を受けます。新規性、進歩性などの条件を満たしている発明であることが特許庁の審査で認められると1~3年分の特許料を納付することで特許権が成立します。

このように発明の完成から特許権成立までは時間を要します。特許法では、発明が完成してから特許権が成立するまでの間における発明者などの利益状態を保護する目的で「特許を受ける権利」というものを認めています。

「特許受ける権利」は発明者が発明を完成させることで発生します。「特許受ける権利」は国家に対して特許権の付与を請求できる権利ですから公権であるとともに請求権であり、かつ、財産権の一種であると考えられています。

財産権の一種ですから、その全部、あるいは一部を譲渡、等によって移転することが可能です。

 

■特許出願人になれる者■

特許出願を行うためには法律上の権利義務の主体となる資格(=権利能力)が必要です。一般的にいう「人」(=自然人)と、法律上の「人」としての地位を認められた団体(=法人)は権利能力を備えており、特許出願人になることができます。

しかし、特許取得を希望する発明についての「特許を受ける権利」を有していなければ特許出願人になることができません。特許出願人がその発明についての「特許を受ける権利」を有していない場合、特許出願の審査の段階では拒絶理由となって特許が認められません。また、特許権成立後であれば、特許無効の理由となって特許無効審判の請求によって特許権が取り消されます。

これはいわゆる「冒認出願」と呼ばれるもので、他人の発明をスパイ行為などによって盗んで特許出願を行っても特許は認められません。

 

■「特許を受ける権利」を取得する形態■

発明者は発明完成によってその発明についての「特許を受ける権利」を取得します。そこで、発明者が特許出願人になって特許出願を行うことができます。

例えば、個人事業主である事業主個人が発明を完成させ、特許出願人となって個人で特許権取得し、会社に実施許諾するケースなどがあります。特許出願人になる者が発明者から「特許を受ける権利」を取得する最も一般的な形態は会社の従業員などが行った発明の「特許を受ける権利」を会社が取得して会社が特許出願人となるものです。この「職務発明」のケースについては後述します。

特許出願後は「特許を受ける権利」を譲渡したことを証明する「譲渡証書」を譲渡人が作成し、この「譲渡証書」を譲受人が特許庁へ提出して特許出願人の名義を変更できます。なお、特許法では「特許を受ける権利」を譲り受ける者である譲受人を「承継人」と表現します。

「特許を受ける権利」は目に見えません。このため、発明者との間でトラブル等が発生するなどで発明者が「特許を受ける権利」を二重譲渡することが起こり得ます。この点も考慮して、特許出願前における「特許を受ける権利」の承継はその承継人が特許出願をしなければ第三者に対抗できないことになっています(特許法第34条)。会社外の発明者から「特許を受ける権利」を取得して特許出願を行う等の場合、二重譲渡が生じないように注意を払う、遅滞なく特許出願を行う、等の対応に注意を払うことが望ましいと考えられます。

 

■職務発明制度■

特許法では「特許を受ける権利」は発明者が発明を完成することで発生し、発明者が発明完成時点で「特許を受ける権利」を取得することにしています。

しかし、会社の従業員が完成した、会社の業務範囲に属し、なおかつ、発明を完成させた従業員の職務上の発明である「職務発明」に関しては、従業員への給与、設備、研究費の提供等、使用者による貢献がなされています。

そこで、特許法では、従業員と使用者との間の衡平に考慮して、使用者に「職務発明」についての無償の通常実施権(特許発明を実施できる権利)を付与するとともに(特許法第35条第1項)、あらかじめ使用者が従業員との間で「職務発明についての特許を受ける権利」を承継すること等を取り決めておくことを認めています(同条第2項反対解釈)。

なお、職務発明を行った従業員は、当該職務発明について使用者に「特許を受ける権利」を取得させたとき、あるいは、特許権を承継させたとき、使用者から「相当の利益」を受ける権利を有することになっています(同条第4項)。

会社内に職務発明規定を設け、使用者が「特許を受ける権利」を取得することを従業員との間であらかじめ取り決め、「従業員が職務発明を完成させた時からその特許を受ける権利は使用者に帰属する(いわゆる原始使用者等帰属)」ように取り決める、あるいは、そのような取決めがないときに、「その特許を受ける権利は従業員に帰属(いわゆる原始従業者等帰属)し、あらかじめ従業員との間で取り決めていたところによって使用者が特許を受ける権利を承継できる」ようにすることが可能です。

 

 

■ニューストピックス■

 

  • 国際標準化めぐり新国家戦略(知的財産推進計画2024)

 

政府の知的財産戦略本部は、「知的財産推進計画2024」を決定ました。同計画では、国際標準化のルール形成に日本として積極的に関与するため、総合的な国家戦略を2025年春をめどに整備する方針を明記しました。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/chitekizaisan2024/pdf/siryou2.pdf

 

国際標準化に関する戦略の改定は19年ぶりです。本部長の岸田首相は「経済安全保障や環境など重要性が高まっている領域において、産学官連携で戦略的に国際標準化を推進し、それを支える人材の育成や支援機関の強化を進める」と述べています。

国際規格は、国際標準化機構(ISO)などの国際機関が、品質管理や互換性確保を目的に製品や部品の標準仕様を定めています。日本企業にとって自社の技術に適合する国際規格が採用されれば、国際競争力の向上につながります。

米国、中国、欧州連合(EU)は、すでに国家戦略を策定しています。日本は知財戦略本部が2006年に「国際標準総合戦略」を策定しましたが、最新の国際情勢を踏まえ、官民連携で取り組む新たな国家戦略が必要と判断しました。

 

  • AI技術の国際競争が激化(令和6年版科学技術白書)

 

文部科学省は、「令和6年版科学技術・イノベーション白書」を公表しました。

https://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpaa202401/1421221_00019.html

 

今年の白書では、人工知能(AI)の研究開発を巡る国内外の動向やAIを活用した科学研究の取り組みなどを特集しています。

白書によると、AIに関する論文数は、世界で2010年以降3倍以上になり、高度化するAI技術の国際競争も激化しています。米国や国家主導で戦略的な投資を行う中国がAIの研究開発を加速させている一方、日本は人材育成や研究資金の確保などの課題が山積していると分析しています。

こうした中、日本では、強みである自動車やロボット工学の分野でAIを活用した研究開発が進められています。具体的な事例として生成AIを活用した自動車のデザインなどが紹介されています。

また、科学研究にAIを活用する動きも始まっています。白書では、大量の顕微鏡画像から生成AIを使ってたんぱく質の構造変化を予測し、創薬につなげる研究なども紹介されています。

 

  • iPS特許の使用めぐり、研究者と理研が和解

 

iPS細胞(人工多能性幹細胞)から網膜の組織を作る技術の特許をめぐり、技術を開発した研究者が、特許権を保有する企業に対して特許技術を利用できるよう経済産業相に裁定を求めていた問題で、研究者側は、企業との間で和解が成立し、一部の治療について特許が利用できるようになったと発表しました。

https://www.vision-care.jp/news/20240530/

 

理化学研究所の元研究者の高橋政代氏は、視界がゆがんだり、視力が低下する目の難病「加齢黄斑変性」の治療を目指して、iPS細胞から網膜の組織を作る技術を開発し、2014年に世界で初めて患者に移植する手術を行いました。

高橋氏が開発した技術の特許権は、理化学研究所や東京のベンチャー企業などが持っていますが、当初の予定どおり治験が始まらなかったため、独自に治験を進めようと、自らベンチャー企業を立ち上げて特許の利用を認めるよう求めたものの、企業側との交渉が進まなかったということです。

高橋氏は発明者ではありますが、特許権を持っていないため、2021年、「公共の利益」を理由に、自らが代表を務めるベンチャー企業「ビジョンケア」(神戸市)も特許が使えるよう、国に裁定を請求しました。裁定とは、特許法に基づき、本来は国が保護すべき財産権である特許を、特許権者とは別の第三者が使うことを国が認める制度です。

今回の和解合意を受け、高橋氏は「公共性の高い特許発明は、よりよく活用できる者による実施が認められなければならないという主張の正当性が実を結んだ」などとコメントしています。

 

  • 知財エコシステムで活躍する女性人材の事例集(特許庁)

 

特許庁は、知財エコシステムで活躍する女性人材の事例とマネジ

メント層の考えなどに関する情報を取りまとめた「Diversity &Innovation~知財エコシステム活性化のカギとなる女性活躍事例~」を作成しました。

https://www.meti.go.jp/press/2024/05/20240517001/20240517001.html

 

 事例集は、持続可能な経済成長の実現のため女性の活躍をはじめとしたダイバーシティ(多様性)の推進が求められることを背景に、組織のマネジメント層に、組織でのダイバーシティを高めるきっかけとして提示したものです。

日本においては、女性研究者の割合は増加しているものの、依然として国際的には低い水準にとどまっています。ジェンダーダイバーシティがイノベーションや企業業績に与える影響についての研究によると、男女が協力して発明した特許の方が経済的価値が高く、ジェンダーダイバーシティが高い企業の財務指標が優れていることが示されています。

女性が活躍できる環境を整えるには、制度だけでなく、組織の文化や周囲のサポートも重要です。そこで、事例集では、知財エコシステムで活躍する女性研究者などを取り上げ、その成功事例をもとに、組織におけるダイバーシティの意義や効果を詳しく説明しています。

 

◆助成金情報 令和6年度「中小企業等海外侵害対策支援事業」

 

特許庁は、海外で取得した特許・商標等の侵害を受けている中小企業に対し、日本貿易振興機構(ジェトロ)を通じて対策費用の一部を助成する「令和6年度中小企業等海外出願・侵害対策支援事業費補助金(中小企業等海外侵害対策支援事業)」を開始しました。

 

同事業は、海外展開に際して模倣品被害や自社商標の抜け駆け出願、産業財産権に係る係争などの課題を抱える中小企業に向けた支援(模倣品対策、冒認商標無効・取消係争、防衛型侵害対策)を実施するものです。申し込み締め切りは10月31日(予算がなくなり次第終了)。

 

模倣品対策支援は、海外での模倣品流通状況の調査や模倣品業者への対抗措置に要する経費の3分の2(上限額400万円)を助成。

冒認商標無効・取消係争支援は、現地企業などに不当に出願・権利化された商標を取り消すために要する費用について、3分の2(上限額500万円)を助成。

防衛型侵害対策支援は、悪意ある外国企業から冒認出願で取得された権利等に基づいて権利侵害として訴えられた場合の対抗措置に要する費用について、3分の2(上限額500万円)を助成。

支援対象や要件等の詳細は、特許庁HPをご参照ください。

https://www.jpo.go.jp/support/chusho/shien_kaigaishingai.html#mohohin

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発行元: 外堀知的財産事務所

弁理士 前田 健一

〒102-0085 東京都千代田区六番町15番地2

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TEL:03-6265-6044

E-mailmail@sotobori-ip.com

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