外堀知的財産事務所メールマガジン 2024年3月号

外堀知的財産事務所メールマガジンを発行しましたので、ブログへ転記いたします。

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◇◆◇ 外堀知的財産事務所 メールマガジン ◇◆◇
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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━
                       2024年3月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
┃ 
┃ ☆知財講座☆
┃(2)特許出願公開の効果
┃ 
┃ ☆ニューストピックス☆

┃ ■商標の「コンセント制度」を導入(特許庁)
┃ ■AIの安全性評価の研究機関を設立(経済産業省)
┃ ■特許庁、途上国のスタートアップ支援
┃ ■J-PlatPatの機能改善(特許庁)
┃ ■「不正競争防止法テキスト」の最新版を公表(経済産業省)
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本年4月1日より商標の「コンセント制度」が導入されます。
「コンセント制度」とは、他人の先行登録商標と同一又は類似の商標が出願された場合であっても、先行登録商標の権利者による同意があり、なおかつ、先行登録商標との間で混同を生じるおそれがないならば、両商標の併存登録を認める制度(留保型の併存合意制度)です。
今号では、「コンセント制度」の概要を取り上げます。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(2)特許出願公開の効果
【質問】
 当社が販売している製品に対して、「自社の特許出願に抵触する」、「補償金」などと記載されている「警告書」を受け取ったのですがどうすればよいでしょうか?

【回答】
 今回のご質問は、特許出願公開が行われた後に、特許出願公開公報に掲載されている発明を実施している第三者に対して特許出願人が送付できる補償金請求権の警告書に関するものです。

<特許権取得の効果は特許権成立後に初めて発揮される>
 特許出願を行って特許庁の審査を受け特許権が成立した後は、特許
権者のみが特許発明を独占排他的に実施できます。特許権者以外の者が、事業として特許発明を実施する(例えば、特許発明品を会社の事業として製造し、販売する)と、特許権侵害になり、特許権者から差止請求や損害賠償請求を受けることになります。
 しかし、これは、特許権成立して以降の第三者の実施行為に関してだけです。第三者が同一の実施行為を特許権が成立する前から継続して行っていても、特許権成立前の実施行為は、差止請求、損害賠償請求の対象になりません。

<特許出願公開公報掲載の発明を第三者が実施すると不法行為?>
 特許制度は産業発達を目的とし、新規で進歩性を有する発明をだれよりも先に公開(特許出願)した者に、所定の期間(原則として出願日から20年を越えない期間)、当該発明を、独占排他的に実施できる権利(特許権)を与え、一方で、第三者には利用の機会(特許権存続期間は実施許諾を受けて、特許権消滅後は自由に実施できる)を与えるものです。
 そこで、特許出願では、特許請求している発明を明確に記載し、また、特許請求している発明をその技術分野の者が再現(実施)できる程度に説明する必要があります。第三者が発明を再現(実施)できる程度に説明が行われていなければ産業の発達に結びつかないからです。
 しかし、第三者の実施行為が特許権侵害になるのは上述したように、特許権成立後の行為のみです。上述したようにその技術分野の者が発明を再現できるように十分な説明が行われている特許出願公開公報掲載の発明を、特許出願人以外の第三者が実施していても、特許権成立前であればそれは不法行為ではなく、特許出願人は、損害賠償請求も、差止請求も行うことができません。

<補償金請求権を発生させるための警告書>
 これでは、新規で進歩性を有する発明をだれよりも先に公開(特許出願)した者への保護に欠けることになります。
 そこで、特許出願公開公報発行後、特許出願公開公報に掲載されている発明を実施している第三者を知った時には、次のような内容の「警告書」を送付することが特許出願人に認められています。これを補償金請求権といいます(特許法第65条)。
 「御社が製造・販売されている○○は当社が特許出願し、その内容が別途の書留便でお届けする特許出願公開公報(特開20○○-○○○号)の特許請求の範囲で特許請求している発明の実施品に該当します。
そこで、当社の特許出願について特許庁での審査によって特許権が成立し、御社が製造・販売されている○○が特許権侵害品に該当することになった時には、この警告書をお届けした時点から特許権成立までの御社による○○の製造・販売行為に対する実施料相当額を『補償金』として当社に支払うよう請求させていただくことになります。」
 特許出願公開公報に掲載されている発明を第三者に実施されたこと
による出願人の損失を塡補する目的で、その実施をした第三者に対して補償金を請求できる権利を特許出願人に認めたものです。

<補償金請求権の警告書を受け取った時の対応>
 上記の警告書を送付しても、補償金請求権を行使できるのは特許権が成立してからです。すなわち、特許権が成立しなければ、警告書送付後、特許権成立までの実施行為に対して遡って実施料相当額を請求することはできません。
 すべての特許出願は、原則として、出願日から1年6月経過した時点で特許出願公開されますが、その中の30~35%程度は出願日から3年の間に審査請求が行われないことで出願日から3年経過した時点で消滅します。また、審査請求したものの中で特許成立するのは60~70%程度です。すなわち、出願公開公報が発行されたものの中で最終的に特許成立するのはその中の40~50%程度です。しかも、審査の過程で特許出願前に存在していた先行技術文献を指摘され、進歩性の存在を主張するために、特許出願公開公報が発行された時点よりは特許権の効力が及ぶ範囲が狭くなって特許成立することが多くなります。
 このため、特許出願公開公報の特許請求の範囲の記載では特許権侵害になる可能性があったが、審査の結果、特許成立しなかった、あるいは、特許成立したが特許権の効力が及ぶ範囲が狭くなったので特許権侵害にはならず、補償金請求権も行使できないことになるのがよくあります。
 そこで、補償金請求権の警告書を受け取ってもあわてることなく、「特許庁での審査の結果を待ちます」として実施行為を継続することが可能です。また、警告書を送ってきた特許出願に特許成立しないように、先行技術文献を特許庁に提出して審査に利用してもらうようにすること
もできます。
 いずれにしても、特許出願公開公報発行後に特許出願公開公報掲載の発明を実施している第三者を発見した、あるいは、上述した補償金請求権の警告書を受け取った場合には、専門家である弁理士に相談することをお勧めします。

<補償金請求権の警告書を送付した者が負う責任は?>
 特許出願公開公報に掲載されている発明を実施している者に対して補償金請求権の警告書を送付したところ、相手方が実施行為を中止し、例えば、購入していた原材料を費用発生させて廃棄処分した、等の対応まで行ったにもかかわらず、特許庁の審査で特許権は成立しなかった、ということが起こり得ます。このような場合でも、補償金請求権の警告書を送付していた特許出願人が損害賠償請求(民法第709条)などの責任追及を受けることはありません。
 特許と同じく、技術的思想の創作を保護するものとして実用新案権がありますが、実用新案権の場合、警告を行った後に、その実用新案権が無効審判請求を受けて無効になってしまったときには、警告書を送付した実用新案権者が無過失賠償責任を負うことがあります(実用新案法第29条の3)。この点が、特許出願公開公報発行後に償金請求権の警告書を送る場合と大きく異なります。
次回は、この点に関するご質問への回答を紹介します。

■ニューストピックス■
●商標の「コンセント制度」を導入(特許庁)
「不正競争防止法等の一部を改正する法律」(知財一括法)により、本年4月1日から商標の「コンセント制度」が導入されることとなりました。
https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/consent/index.html
「コンセント(consent:同意)制度」とは、他人の先行登録商標と同一又は類似の商標が出願された場合であっても、先行登録商標の権利者による同意があり、なおかつ、先行登録商標との間で混同を生じるおそれがないならば、両商標の併存登録を認める制度(留保型の併存合意制度)です。コンセント制度に係る改正商標法の規定は、令和6年4月1日から施行されます。
これまで日本では、単に当事者間で合意がなされただけでは併存する類似の商標に関して需要者が商品又は役務の出所について誤認・混同するおそれが排除できない等の理由から導入が見送られてきました。一方、海外においては既に多くの国や地域で、コンセント制度が導入されています。
また、日本ではコンセント制度に代わり、「アサインバック」(出願人と先行登録商標権者の名義を一時的に一致させる手法)制度が利用されていましたが、アサインバックは、一時的に名義を一致させて拒絶理由を解消させた後、名義を元に戻す名義変更をもう一度行う必要があることから、手続が煩雑となり、時間的・費用的負担も課題となっていました。
そこで、中小企業等のブランド選択の幅を広げる必要性や、国際的な制度調和の観点から、本年4月1日よりコンセント制度が導入されることになりました。
日本のコンセント制度は、先行登録商標の権利者の同意があれば両商標の併存登録を認める制度を採用しつつ、他方で、同意があっても、なお出所混同のおそれがある場合には登録を認めない「留保型」となっています。
改正商標法が施行される令和6年4月1日以降に出願が行われたものについては、先行登録商標権者の承諾を得ており、かつ、先行登録商標と出願商標(両商標)との間で混同を生ずるおそれがないものについては、登録が認められることとなります。また、同日に2つ以上の商標登録出願があった場合にも、コンセント制度の利用が可能となります。
コンセント制度が導入されると、商標や商品・役務が同一・類似の先行登録商標と後行登録商標の2つが併存するケースが想定されます。そのため、併存登録された商標については、登録後の混同防止を担保するため、一方の権利者の使用により他の権利者の業務上の利益が害されるおそれのあるときに、当該使用について両商標間における混同を防ぐのに適当な表示を付すべきことを他の権利者が請求できる「混同防止表示請求」(第24条の4第1号及び第2号)の規定や、一方の権利者が不正競争の目的で他の権利者の業務に係る商品又は役務と混同を生ずる使用をしたときに、何人もその商標登録を取り消すことについて審判請求できる「不正使用取消審判」(第52条の2第1項)の規定が設けられました。
なお、上述した混同防止表示請求及び不正使用取消審判の規定は、設定登録前のアサインバックにより、改正法施行時点で併存登録されている商標に対して、改正法施行日である令和6年4月1日から適用されることになっています。

●AIの安全性評価の研究機関を設立(経済産業省)
経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、AIの安全性の評価手法などを研究する専門機関を設立しました。
https://aisi.go.jp/
新たな研究機関「AIセーフティ・インスティテュート(AISI)」は、AI開発や著作権侵害、偽情報の拡散などといったリスクに対する安全性の評価や指標を調査・研究し、国際連携を行うことを目指しています。
所長には、元日本IBMのAI研究者で、現在は損保ジャパンCDO(チーフ・デジタル・オフィサー)で京都大学防災研究所客員講師の村上明子氏が就任しました。
今後、国内外のネットワークを活用して、安全性評価に関する調査や基準の検討、実施手法に関する検討、および他国の関係機関との国際連携などを進める方針です。

●特許庁、途上国のスタートアップ支援
特許庁は、WIPO(世界知的所有権機関)との間で、途上国のスタートアップ企業を対象に特許権や商標権など知的財産の管理を支援する協力声明に署名しました。
https://www.meti.go.jp/press/2023/02/20240221004/20240221004.html
日本はWIPOに途上国の知的財産支援を目的とした基金をすでに設置していますが、ここからおよそ2億円を充て、WIPOが経営や知財の専門家をスタートアップに派遣する取り組みで、約1000社を知財分野で支援するとしています。
特許庁は、途上国の知財制度を整えることで、日本企業が現地で事業を進めやすい環境づくりをめざす方針です。

●J-PlatPatの機能改善(特許庁)
 特許庁と(独)工業所有権情報・研修館(INPIT)は、特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」の機能を改善したと発表しました。
<改善された主な機能>
・商標検索及び審決検索における人名検索を完全一致検索から部分一致検索に変更
・検索条件を5件まで保存
・文献固定アドレスの簡素化(短縮)
・「分割出願情報」タブへの表示追加

機能の詳細は、工業所有権情報・研修館(INPIT)のHP
https://www.inpit.go.jp/j_platpat_info/240213_release.html

●「不正競争防止法テキスト」の最新版を公表(経済産業省)
経済産業省は「不正競争防止法テキスト」の最新版を公表しました。
https://www.meti.go.jp/policy/economy/chizai/chiteki/pdf/unfaircompetition_textbook.pdf
テキストは、不正競争防止法の概要や各行為の類型が掲載されており、全体的に不正競争防止法を知りたい方向けの冊子になります。
改訂版では、本年4月1日に施行される改正不正競争防止法の項目を盛り込んだ最新の内容となっています。
<アップデートされた主な項目>
・形態模倣品の提供行為に係る不正競争行為に電気通信回線を通じて提供する行為を追加
・営業秘密・限定提供データの保護の拡充(限定提供データの定義の見直し、損害賠償額の算定規定・使用等の推定規定の拡充、国際的な営業秘密侵害に係る手続(裁判管轄・適用範囲)
・外国公務員贈賄罪に係る規律の強化(法定刑の引上げ、場所的適用範囲の拡大)


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発行元: 外堀知的財産事務所
弁理士 前田 健一

〒102-0085 東京都千代田区六番町15番地2 鳳翔ビル3階
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