外堀知的財産事務所メールマガジン 2024年2月号

外堀知的財産事務所メールマガジンを発行しましたので、
ブログへ転記いたします。

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◇◆◇ 外堀知的財産事務所 メールマガジン ◇◆◇

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━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━

                       2024年2月号

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┃ ◎本号のコンテンツ◎

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┃ ☆知財講座☆

┃(1)特許出願公開

┃ ☆ニューストピックス☆

┃ ■「他人の氏名を含む商標」の登録要件を緩和へ(特許庁)

┃ ■「類似商品・役務審査基準」を改訂(特許庁)

┃ ■「はま寿司」が「かっぱ寿司」を提訴(東京地裁)

┃ ■ユニクロ、中国発通販サイト「SHEIN」を提訴(東京地裁)

┃ ■「特許出願非公開制度」の解説動画を公開(INPIT)

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「不正競争防止法等の一部を改正する法律」(知財一括法)により、「他人の氏名を含む商標」の登録要件が緩和されます。施行日(令和6年4月1日)以後にした出願について適用されることとなります。

創業者やデザイナーの氏名など、これまで登録が困難だった商標について大きく要件が緩和されます。

今号では、「他人の氏名を含む商標」の登録要件の緩和について取り上げます。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃

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(1)特許出願公開

【質問】

 「特許出願を行うと特許出願した発明の内容が同業他社に知られてしまう」と聞いたことがあります。特許出願を行うとその内容はすぐに世の中の人に知られてしまうのでしょうか?

 

【回答】

<特許出願の内容は出願日から1年6カ月後に公開されます>

 今回のお問い合わせは特許出願公開に関するものです。

 特許庁は特許出願を受け付けると直ちに「受領書」を発行して特許出願番号と特許出願日を付与してくれます。

 特許出願番号はカレンダーイヤーごとに1番から付与されます。
特許庁が2023年に受け付けた最初の特許出願には「特願2023-1」、100番目に受け付けた特許出願には「特願2023-100」という特許出願番号がそれぞれ付与されます。

 特許庁は特許出願を受け付けた後1年6月(=18カ月)経過するまではその内容を秘密にして保持します。
誰による、いかなる内容の特許出願を受け付けたのか秘密にしてくれます。

 同一の発明については一日でも先の特許出願に特許が与えられます(先願主義(センガンシュギ)特許法第39条)。
そこで、特許出願を行うと特許出願人は「先願の地位」を獲得できます。
もしも、その後に、だれかが、同一内容の発明について特許出願してきても、その後からの特許出願を「同一の発明について後から行われた特許出願ですので特許は認められません」としてもらえる地位です。

 特許出願人は、「当社はこの製品に採用した新技術について特許出願し、特許庁から特許出願番号『特願2023-○○○』の付与を受けています。」と宣伝できます。
このときに、同業他社が、特許庁のJ-PlatPatに特許出願番号「特願2023-○○○」を入力して検索しても出願日から1年6月経過するまではいかなる情報も取得できません。

 一方、出願日から1年6月経過すると、特許庁は、1年6月前に受け付けた特許出願の内容(特許請求されている発明を説明している文章、図面、特許出願人・発明者の情報(住所・名称・氏名))を公表します。

 この公表は、紙に印刷した特許出願公開公報として特許庁から発行され、また、インターネット上のJ-Plat Patに電子情報が掲載されることで行われます。
電子情報でインターネット上に公表されますから、この後は、特許出願番号を用いてだけでなく、特許出願人の名称(例えば、同業他社の会社名など)や、発明を説明する技術用語などをキーワードに用いて特許出願の内容を検索できるようになります。

 このように、「特許出願を行うとその内容はすぐに世の中の人に知られてしまう」わけではありませんが、出願日から1年6月経過すると特許出願の内容は世界中の人に知られるようになります。
これを「特許出願公開」(特許法第64条)といいます。

<なぜ出願日から1年6月で公開されてしまうのか?>

 「特許制度は、新しい技術を公開した者に対し、その代償として一定の期間、一定の条件の下に特許権という独占的な権利を付与し、他方、第三者に対してはこの公開された発明を利用する機会を与える(特許権の存続期間中においては権利者の許諾を得ることにより、また存続期間の経過後においては全く自由に)もの」です。
「このように権利を付与された者と、その権利の制約を受ける第三者の利用との間に調和を求めつつ技術の進歩を図り、産業の発達に寄与していくもの」です(工業所有権法逐条解説 特許法第1条)。

 その昔の日本では、特許出願の内容は特許庁で審査を受けて特許成立するものだけが公表されていました。
この仕組みですと、どのような発明について特許出願が行われているのか特許出願人以外は知ることができません。

 このため、第三者の特許権成立が、突然、公示され、特許権侵害になるのを避けるため、自社が実施している技術内容を急きょ変更しなければならない事態になることが起こり得ます。
いわゆる「サブマリン特許」です。
これでは安定した企業活動を行うことが難しくなります。

 また、同業他社が既に特許出願を行っている発明であることを把握できたならば別の方向に研究を進めることが可能であったのに、把握できないため、同業他社が特許出願済の発明内容について研究開発を続けていたという事態が起こり得ます。
これは、一企業にとっても、また、日本の産業界全体でみても、重複した研究を行い、重複した投資を行っている、ということになります。

 そこで、特許庁での審査を経て特許成立することになってからでなければ特許出願内容が公表されないことで生じる企業活動の不安定性や、重複研究、重複投資という弊害を除去する目的で、昭和45年(1970年)の特許法一部改正によって特許出願公開制度が採用されました。

 なお、特許出願日から1年6月経過するまでに審査請求や、早期審査の請求が行われることで審査が完了して特許権成立し、その内容を社会に公示する特許公報(=特許掲載公報)が発行されている場合や、出願公開前に特許出願が取下げ、放棄あるいは却下され又は拒絶査定が確定しているときなどでは、例外的に、特許出願公開が行われないことがあり得るとされています。


■ニューストピックス■


●「他人の氏名を含む商標」の登録要件を緩和へ(改正商標法)

「不正競争防止法等の一部を改正する法律」(知財一括法)により、「他人の氏名を含む商標」の登録要件が緩和されます。
施行日(令和6年4月1日)以後にした出願について適用されることとなります。

https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/seidogaiyo/shimei.html


創業者やデザイナーの氏名をブランド名として利用するケースは多いと思われます。
ただし、現行の商標法においては、他人の氏名を含む商標は、その他人の承諾を得なければ、たとえ自分の氏名であったとしても登録することはできません。

現時点でご自身の氏名の商標を出願したとしても、同じ氏名を持つ人全員の承諾を得ることができる場合や、同じ氏名の人が他にいないといった特殊な場合を除いて拒絶されてしまうため、その登録は極めて困難といえます。

現行法では、創業者やデザイナーの氏名を今後ブランド名として採用する場合だけでなく、既に周知・著名となっているブランドまでも同じ氏名の他人が存在すれば、商標権による保護を受けられないこととなり、その点が問題視されていました。

今回の改正では、「他人の氏名」に一定の知名度の要件と、出願人側の事情を考慮する要件(政令要件)を課し、他人の氏名を含む商標の登録要件を緩和します。

具体的には、次の2つの条件を満たした場合、他人の承諾なしに商標登録できることになります。

1.氏名に一定の知名度を有する他人が存在しない

2.商標構成中の氏名と、出願人との間に「相当の関連性」があり、商標登録を受けることに「不正の目的」がない


「相当の関連性」とは、例えば、出願人の自己氏名、創業者や代表者の氏名、出願前から継続的に使用している店名などです。

また、「不正な目的」とは、例えば、他人への嫌がらせの目的や先取りして商標を買い取らせる目的などです。


●「類似商品・役務審査基準」を改訂(特許庁)


特許庁は、「類似商品・役務審査基準(国際分類第12-2024版対応)」を公表しました。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/ruiji_kijun/ruiji_kijun12-2024.html


「類似商品・役務審査基準」は、類似関係と推定する商品または役務をグループ分けし、各グループ検索のために特定コードを付与したものです。
主に他人の先行商標登録との関係審査に際し、特許庁審査官の統一的基準として使用されています。

商標登録出願の際には、願書の「指定商品又は指定役務並びに商品及び役務の区分」の欄に、出願する商標を使用する商品名又は役務名を指定して記載しなくてはなりません。
そのため、一般的に出願を行う際は、この「類似商品・役務審査基準」に基づいて具体的な商品名又は役務名を願書に記載しています。

今回公表された改訂版は、令和6年1月1日以降の出願に適用されます。
出願の際には最新の「類似商品・役務審査基準」をご参照することをお勧めします。

この「類似商品・役務審査基準」は、過去のものを含め、特許庁の公式サイトからダウンロード可能です。


●「はま寿司」が「かっぱ寿司」を提訴(東京地裁)


回転ずし大手「かっぱ寿司」を運営する「カッパ・クリエイト」の前社長が、ライバル会社「はま寿司」の営業秘密を不正に入手して利用した事件をめぐり、はま寿司の親会社のゼンショーホールディングス(HD)は、前社長やカッパ社などに対し、営業秘密の使用禁止や廃棄、5億円の損害賠償などを求めて東京地裁に提訴したと発表しました。https://www.zensho.co.jp/jp/company/news/resource/pdf/20231227.pdf


ゼンショーHDからカッパ社に転職した前社長は、2020年、はま寿司の原価データなどを不正に持ち出したなどとして、不正競争防止法違反(営業秘密領得)の罪で起訴され、東京地裁で有罪が確定
しています。

ゼンショーHDによると、事件の捜査や裁判の過程で、はま寿司各店舗の損益計算書や売上高なども不正取得され、カッパ社内で開示されていたことを確認したとしています。
63億円以上の損害が出たと推計した上で、カッパ社や前社長にその一部として5億円を請求し、情報の廃棄なども求めました。


●ユニクロ、中国発通販サイト「SHEIN」を提訴(東京地裁)


衣料品大手のユニクロは、中国発のファッション通販サイト「SHEIN(シーイン)」でショルダーバッグの模倣品が販売されているとして、運営会社など3社を東京地方裁判所に提訴したと発表しました。
ユニクロは3社の行為が不正競争防止法に違反するとして、販売停止と約1億6000万円の損害賠償を求めています。
https://www.fastretailing.com/jp/ir/news/2401161500.html


ユニクロによりますと、「SHEIN」で販売されている商品は、ユニクロが販売する人気商品「ラウンドミニショルダーバッグ」と色や柄が異なった場合でも本体やベルトなどの形状が酷似しているとしています。

ユニクロは、去年9月までに該当する「SHEIN」の商品を把握し、ホームページ上で消費者向けに模倣品・類似品について注意喚起していましたが、今回、企業ブランドと商品の品質に対する信頼を大きく損ねているとして、提訴に踏み切りました。
賠償額は、模倣品による自社商品の販売減少分などとしています。

●「特許出願非公開制度」の解説動画を公開(INPIT)


INPIT「(独)工業所有権情報・研修館」は、知的財産e-ラーニングサイト「IP ePlat」において、本年5月1日に施行される「特許出願非公開制度」に関する解説動画を公開しました。
https://www.inpit.go.jp/jinzai/topic/info_20240122.html


特許出願非公開制度は、公にすることにより国家及び国民の安全を損なう事態を生ずるおそれが大きい発明が記載されている特許出願につき、出願公開等の手続を留保するとともに、その間、必要な情報保全措置を講ずることで、特許手続を通じた機微な技術の公開や情報流出を防止する制度です。

解説動画では、制度概要、手続の流れ、外国出願に関する留意事項等について解説しています。
特に、特定技術分野に属する発明については、日本へ出願せずに外国出願(PCT出願を含む)をすることが禁止される場合がある等、留意が必要です。


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 発行元: 外堀知的財産事務所

弁理士 前田 健一

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