※標準必須特許を専門に調停 外堀知的財産事務所 メールマガジン 2026年3月号
外堀知的財産事務所メールマガジンを発行しましたので、ブログへ転記いたします。
************************************************************
◇◆◇ 外堀知的財産事務所 メールマガジン ◇◆◇
************************************************************
このメルマガは当事務所とお取引きいただいている皆様、または当事務所とご面識のある皆様にお届けしています。
知的財産に関する基礎知識や最新の法改正情報など、実務上お役に立つと思われる情報をピックアップして、送らせて頂きます。
メルマガ配信をご希望でない場合は、誠に恐縮ですが、下記アドレスまでお知らせください。
メールアドレス: mail@sotobori-ip.com
━ 知財担当者のためのメルマガ ━━━━━━━━━━━━━━━
2026年3月号
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┃ ◎本号のコンテンツ◎
┃
┃ ☆知財講座☆
┃(26)数値で裏付けられている発明(数値限定発明)
┃
┃ ☆ニューストピックス☆
┃
┃ ■標準必須特許(SEP)を専門に調停(東京地裁)
┃ ■先端技術分野の開発などを支援(経済安全保障法改正案)
┃ ■大学等における産学連携の実施状況を報告(文部科学省)
┃ ■モノクロ映画をカラー化、海賊版販売者に有罪判決(大阪地裁)
┃ ◆助成金情報 令和8年度外国出願費用の助成<第2回>(INPIT)
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
INPIT(独立行政法人工業所有権情報・研修館)は、3月2日から令和8年度「外国出願補助金」(第2回)の募集を開始します。
本補助金では、出願手続に要する費用と出願審査請求、拒絶理由通知に対する応答手続に要する費用が補助されます。
┏━┳━┳━┳━┳━┳━┳┓
┃知識┃ファイナンス┃基礎┃講義┃
┗━┻━┻━┻━┻━┻━┻┛━━━━━━━━━━━━━━━━
(26)数値で裏付けられている発明(数値限定発明)
【質問】
特許請求している発明は、実施例で行った実験で確認できた数値に基づいて範囲を特定しているものです。このような数値範囲で限定されている発明が、いわゆる『強い特許』だと考えてよいのでしょうか?
【答え】
研究論文などでは実験データ等の数値を具体的に示すことが信頼を得る上で必要です。ところが、特許権で保護される発明は技術的思想の創作ですから、抽象的で概念的なものです。そこで、数値で裏付けられている発明が必ずしも「強い特許」と評価されるわけではありません。
<発明は技術的思想の創作>
学会などで発表される研究論文などでは、研究成果を裏付ける数値(例えば、大きさ、温度、濃度、圧力などについての数値データ)を具体的に示すことが評価を高め、信頼を得る上で重要です。
特許出願でも実験によって得られた数値による裏付けは、特許請求している発明に特許が認められるための条件を構成する実施可能要件(特許請求されている発明が当業者によって再現できる程度に十分に明細書に記載されていなければならない)や、サポート要件(特許請求している発明は明細書の記載に支えられていなければならない)を充足する上で重要です。
しかし、数値によって発明を特定すること、すなわち、特許請求する発明を数値限定によって特定することで、特許権の効力が及ぶ範囲が狭くなることがありますので、これを理解しておく必要があります。
例えば、「加熱温度60℃~70℃で加熱する」等の記載によって特許発明が特定されている場合、第三者が特許発明に係る技術を55℃での加熱によって実施しているならば特許権侵害になりません。
特許法で保護される発明は「自然法則を利用した技術的思想の創作」です。“技術的思想”は、所定の目的を達成するための自然法則を利用した具体的な手段である点で“技術”と一致しています。しかし、“技術”は産業上実際にそのまま利用することができる具体的手段そのものであるのに対して、“技術的思想”は、そのような段階にまで達していない、より抽象的、概念的な、思想(すなわち、抽象的な観念(idea)又は概念(concept))としての手段である点で“技術”と相違しています。
この“技術的思想”に関して特許法概説(第13版)(吉藤幸朔著、熊谷健一補訂(株)有斐閣)では、「発明の本質はその形体の内に存在する無形の観念である。」、「底辺を共通にし一定の高さを有する三角形を思想であると仮定すれば、この思想のもとで形状を異にする多くの三角形を画くことができるが、これらは、思想の形体であるということができる。(竹内賀久治 特許法〔昭13 巌松堂〕)」という説明が行われています。
特許出願では、試験・実験などの検討によって得られた多数のデータに基づいて、普遍的な技術的思想を発明として導き出し、それを特許請求することで、より効力範囲が広い特許権取得を目指します。同業他社の実施行為を特許権侵害であるとして排除できる特許権の効力がより広い範囲で特許取得することが求められますので、数値で裏付けられている発明が必ずしも「強い特許」と評価されるわけではありません。
<実験データに基づいて特許請求する場合の注意>
発明は技術的思想の創作ですから、具体的データに基づいて普遍的な技術的思想を導き出して、より上位の発明概念で特許請求することが望ましいですが、より上位の発明概念で審査を受けるほど先行技術文献の存在を指摘されて進歩性欠如の拒絶理由を受ける可能性が大きくなります。
そこで、「特許請求の範囲」に記載されている請求項で特許請求する発明を、実験例、実施例などで確認できた数値を用いる数値限定で特定したり、請求項1では数値を用いていないより上位の発明概念で特許請求し、請求項1を引用している請求項2などの下位概念の発明を数値限定で特定することがよくあります。例えば、「加熱温度60℃~70℃で加熱する」等の数値限定によって発明を特定することです。
このような場合、数値限定の臨界的意義※が、明細書に記載されている実験例、実施例によって十分に立証されているならば、この数値限定があることによって、拒絶理由に引用された先行技術文献記載の発明との差異を明確にして新規性・進歩性の存在を主張する上で有利になります。
※上述の例でいえば、「加熱温度60℃~70℃」の範囲内での複数の実験例・実施例と、この範囲以外での比較例とによって、「60℃~70℃」の範囲での加熱と、この範囲以外の60℃未満や70℃を越える範囲での加熱とでは発明の目的達成に有意の差が生じることを立証することで「60℃~70℃」という数値限定の範囲に臨界的意義があることを立証できます。
特許請求する発明を数値限定で特定する場合には、その数値限定に臨界的意義が存在することを立証できるための実験・検討、データ取りが重要になります。
<数値限定を用いて発明が特定されている場合の審査>
数値限定を用いて発明が特定されている場合の新規性・進歩性の判断に関して、特許庁が公表している特許審査基準では「特定の表現を有する請求項等についての取扱い」の項で以下の説明がされています。
https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/patent/tukujitu_kijun/document/index/03_0204.pdf
「数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合」請求項に係る発明の認定請求項に数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合も、通常の場合と同様に請求項に係る発明を認定する(「第 3 節新規性・進歩性の審査の進め方」の 2.参照)。
進歩性の判断
請求項に数値限定を用いて発明を特定しようとする記載がある場合において、主引用発明との相違点がその数値限定のみにあるときは、通常、その請求項に係る発明は進歩性を有していない。実験的に数値範囲を最適化又は好適化することは、通常、当業者の通常の創作能力の発揮といえるからである。
しかし、請求項に係る発明の引用発明と比較した効果が以下の(i)から(iii)までの全てを満たす場合は、審査官は、そのような数値限定の発明が進歩性を有していると判断する。
(i)その効果が限定された数値の範囲内において奏され、引用発明の示された証拠に開示されていない有利なものであること。
(ii)その効果が引用発明が有する効果とは異質なもの、又は同質であるが際だって優れたものであること(すなわち、有利な効果が顕著性を有していること)。
(iii) その効果が出願時の技術水準から当業者が予測できたものでないこと。
なお、有利な効果が顕著性を有しているといえるためには、数値範囲内の全ての部分で顕著性があるといえなければならない。
また、請求項に係る発明と主引用発明との相違が数値限定の有無のみで、課題が共通する場合は、いわゆる数値限定の臨界的意義として、有利な効果の顕著性が認められるためには、その数値限定の内と外のそれぞれの効果について、量的に顕著な差異がなければならない。
他方、両者の相違が数値限定の有無のみで、課題が異なり、有利な効果が異質である場合には、数値限定に臨界的意義があることは求められない。
■ニューストピックス■
- 標準必須特許(SEP)を専門に調停(東京地裁)
東京地方裁判所は、標準必須特許(Standard Essential Patent:SEP)に関する紛争解決を目的とした新たな専門調停制度を導入しました。無線通信の分野などにおける標準規格の実施に不可欠な特許である標準必須特許(SEP)を巡る国際的な特許紛争などを迅速に解決することを目指しています。
調停制度の開始に伴い、東京地裁知的財産権部は、早期決着に向け、和解を前提とした「標準必須特許(SEP)に基づく特許権侵害訴訟の審理要領」も公表しました。
SEPを巡るライセンス交渉や紛争は、これまで通信事業者間で行われることが中心でしたが、IoTの普及により、通信事業者以外の異業種間でのライセンス交渉や訴訟が増えています。
一方、近年、SEPのライセンス料の高額化や、複数の特許が絡み合うことによる訴訟の複雑化や長期化などが課題となっています。
今回導入された調停制度では、訴訟であれば、通常、数年を要するところを、半年(原則3回の調停)での合意を目指しています。迅速な合意を得られれば、企業のコストや時間の負担が大幅に軽減することができます。
また、日本の特許だけでなく、全世界のライセンス契約をパッケージで解決できるよう設計されています。
調停員は、裁判官1名と弁護士等の専門家2名という3名の構成で企業間の合意形成を促します。
- 先端技術分野の開発などを支援(経済安保法改正案)
政府は、経済安全保障推進法の改正案を今国会に提出する方針です。
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/keizai_anzen_hosyohousei/r8_dai15/teigen.pdf
日本を取り巻く安全保障環境、生成AI(人工知能)をはじめとした先端技術の開発競争の激化を背景に、2022年に制定した経済安全保障推進法を初めて改正し、実効性を強化する方針です。
経済安全保障推進法(経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律)は、主に以下の4つの制度で構成されています。
①国民生活に重要な特定の物資の安定供給を確保する制度
②電気・ガスなどの基幹インフラの安定的な稼働を外部の妨害から守る制度
③国民生活や経済活動において重要になる先端技術の研究開発を促進する制度
④一部の機微な分野において特許出願を非公開とする制度
改正案では、物流の要である港湾やAI開発に不可欠なデータセンターの整備などを念頭に「特定海外事業」を設定し、支援します。海外事業で損失が発生した場合、国際協力銀行(JBIC)が他の投資家よりも先に引き受ける「劣後出資」という仕組みで融資を可能とします。研究開発から国内外での事業展開まで国費による補助を通じて、日本の技術的優位を目指します。造船事業、高速通信規格「5G」の海外事業などを想定しています。
このほか、安定的な供給が滞れば社会・経済への影響が大きい「特定重要物資」について、これまで重要鉱物や半導体、蓄電池など12物資が指定されていますが、新たに「船体を構成する部品」「無人航空機(ドローン)」「人工衛星・ロケット部品」「磁気センサー」「人工呼吸器」が指定されました。
- 大学等における産学連携の実施状況を報告(文部科学省)
文部科学省は、「令和6年度大学等における産学連携等実施状況」を公表しました。
https://www.mext.go.jp/content/20260212-mxt_sanchi02-000046850_1-01-v2.pdf
それによると、研究資金等の受入額(共同研究・受託研究・治験等・知的財産)は、約5,313億円と、前年度と比べて約593億円増加(12.6%増)しました。
民間企業との共同研究をみると、「研究実施件数」は32,093件と、前年度と比べて907件増加(2.9%増)し、「研究費受入額」は約1,065億円と、前年度と比べて約37億円増加(3.6%増)しました。
知的財産権等による収入額は、約72.6億円と、前年度と比べて約9.5億円減少(11.5%減)。知的財産権等による収入額の内訳をみると、「特許権(約52.2億円)」が全体の71.9%を占めています。続いて、「マテリアル(約9.8億円)」が13.5%、「その他(ノウハウ等) (約6.5億円)」が8.9%、「著作権(約3.0億円)」が4.1%となっています。
特許権実施等の収入額の内訳をみると、「ランニングロイヤリティ」が約29.4億円と、前年度と比べて約3.7億円増加(14.2%増)し、全体の56.3%を占めています。
- モノクロ映画をカラー化、海賊版販売者に有罪判決(大阪地裁)
モノクロ映画「ゴジラ」を無断でカラー化した海賊版DVDを販売したとして、著作権法違反の疑いで起訴された海賊版の販売者に対し、大阪地方裁判所は、懲役1年6カ月(執行猶予3年)、罰金50万円の有罪判決を言い渡しました。一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)が発表しました。
CODAの調査によると、一般の映画作品におけるAIによる著作権法違反での逮捕および有罪が認定された初の事例となります。
販売されたDVDは、AIを用いて作品全編をカラー化。販売者は「著作権保護期間の終了したパブリックドメイン」であるため、合法だと主張していました。しかし、実際は、販売されたDVDの多くの作品が保護期間内にありました。
◆助成金情報 令和8年度外国出願補助金<第2回>(INPIT)◆
INPIT(独立行政法人工業所有権情報・研修館)は、3月2日から令和8年度「外国出願補助金」(第2回)の募集を下記のとおり開始します。
https://www.inpit.go.jp/content/100885212.pdf
【公募期間】
令和8年3月2日(月)から3月23日(月)17:00まで
【助成概要】
外国での特許、実用新案、意匠又は商標の出願・権利化を予定している中小企業、中小スタートアップ企業、小規模企業、大学等に対し、外国出願に要する費用の1/2を助成。
既に日本国特許庁に対して行っている出願について、パリ条約に基づく優先権を主張して外国特許庁等へ出願するもの等が補助対象。
【対象経費】
外国特許庁への出願料、国内・現地代理人費用、翻訳費用 等
【補助率と上限額】
補助率:1/2
上限額 1企業あたり:300万円(※大学等は1法人当たりの上限額なし)
1案件あたり:特許 150万円
実用新案・意匠・商標 それぞれ60万円
冒認対策商標 30万円(冒認対策商標とは、冒認出願の対策を目的とした商標出願)
******************************************************************
発行元: 外堀知的財産事務所
一級知的財産管理技能士・弁理士 前田 健一
〒102-0085 東京都千代田区六番町15番地2鳳翔ビル3階
電話番号:03-6265-6044
*************************************************************
本メールマガジンの無断転載はご遠慮下さい。
本メールマガジンの記載内容については正確を期しておりますが、弊所は、利用される方がこれらの情報を用いて行う一切の行為について責任を負うものではありません。
