※「日本成長戦略会議」を新設 外堀知的財産事務所 メールマガジン 2025年11月号
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2025年11月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
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┃ ☆知財講座☆
┃(22)特許出願公開公報と特許掲載公報の違い
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┃ ☆ニューストピックス☆
┃
┃ ■特許審査の質についてのユーザー評価調査報告書(特許庁)
┃ ■「3倍巻きトイレ紙」の数値限定特許、二審も特許侵害認めず
┃ ■大阪・関西万博「ミャクミャク」の売上800億円(万博協会)
┃ ■ノーベル生理学・医学賞と化学賞、日本人がダブル受賞
┃ ■「日本成長戦略会議」を新設、先端技術に積極投資(政府)
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特許庁は、「令和7年度特許審査の質についてのユーザー評価調査報告書」を取りまとめました。
同調査は、特許審査に対するユーザー(出願人や権利を行使される第三者等)のニーズの把握などを目的に、特許審査・国際調査など全般の質について調査したものです。
報告書によると、「特許審査全般の質」は、肯定的な評価の割合(5段階評価の3以上)が95.7%に上りました。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(22)特許出願公開公報と特許掲載公報の違い
【質問】
特許権が成立し特許証の発行を受けたのですが、その後、「特許掲載公報が特許庁から発行された」ということで弁理士さんから特許掲載公報をいただきました。
特許出願から18カ月経過して特許庁から発行された特許出願公開公報に比較すると特許出願人という表示であったところが特許権者になり、特許番号や、登録日といった情報が追加されているだけで特許出願公開公報に掲載されていた内容と変わらないように思います。
既に特許出願公開公報が発行されているにもかかわらず、特許成立した後に特許掲載公報が発行されるのはなぜでしょうか?
【回答】
既に特許出願公開公報(一般的には「公開公報」と呼ばれます)が特許庁から発行されているのになぜ特許成立後にも改めて特許掲載公報(一般的には「特許公報」と呼ばれます)が特許庁から発行されるのか、その理由を説明します。また、時には、特許出願公開公報が発行される前に特許掲載公報が発行されることがありますので、併せてこの理由も説明します。
<特許出願から特許取得までの流れ>
特許出願日から1年6月(=18カ月)が経過した時点で特許出願公開公報が発行されます。
そして、特許庁での審査の結果「拒絶理由を発見できない」として「特許を認める」という特許査定を受け、その後、所定の期間(特許査定謄本発送日から30日以内)に1~3年分の特許料を特許庁へ納付することで特許権が成立し、特許証が特許庁から発行されます。
特許掲載公報(特許公報)は、特許権成立後2~3週間して特許庁から発行されます。
<特許出願公開公報が発行される理由>
特許出願後18カ月が経過したときに、審査の段階のいかんにかかわらず特許出願の内容を公衆に知らせるべく、特許出願の内容を特許出願公開公報に掲載して特許庁から発行する出願公開制度は1970年(昭和45年)の特許法一部改正によって導入された制度です。
出願公開制度が導入される以前、特許出願の内容は、特許庁での審査が完了して特許成立し、その内容が公表されるまで公衆に明らかにされませんでした。なお、当時は、特許出願公告公報(いわゆる公告特許公報)として特許権が成立する発明の内容が特許権者に関する情報などと共に公表されていました。公告特許公報が発行されるまで、どのような技術内容について特許成立するのかということはもちろん、どのような技術内容について既に特許出願が行われているのかということも特許出願人以外の者は把握できなかったのです。
このような仕組みの下では、他社がどのような技術内容について研究・開発を行っているのかを把握できません。そこで、異なる複数の企業が同じような技術内容について研究を行い、そのための投資を行っているという事態が起こり得ます。特許法は産業の発達を目的にしているにもかかわらず、社会全体で考えると、重複した研究、重複した投資が行われているという事態になります。また、当時は、審査に時間を要し、審査が遅延することが多々ありました。このため、特許出願されている発明内容の公表が遅くなり、特許権が成立する発明内容がいきなり社会に公表されることで企業活動が不安定になるという問題もありました。
このような弊害を除去する目的で出願公開制度が導入されました。審査段階のいかんにかかわらず、すなわち、既に審査請求されていて審査が開始されているかどうか、将来、審査の結果で特許権が成立するものであるかどうかを問わず、出願日から1年6月経過した時点で特許出願の内容を社会に知らせることにしたのです。
なお、取下げ、放棄、却下によって、あるいは審査で拒絶査定が確定したことで出願公開前に特許出願が特許庁に係属していない場合には特許出願公開は行われません。ただし、既に特許庁内で特許出願公開の準備が完了した後に、特許出願の取下げ、等が行われたり、拒絶査定が確定したときには、特許出願日から1年6月経過した時点で特許出願が特許庁に係属していない状態であるにもかかわらず特許出願公開が行われることがあります。
特許庁での審査によって特許が成立するものであるかどうかを問わず、とにかく、18カ月前にこのような内容の特許出願を受け付けましたということで特許出願公開されることで、上述した重複研究、重複投資が抑制され、予想もしていなかった技術内容の特許権がいきなり成立する事態が発生することも抑制されるようになりました。また、原則として、特許庁が18カ月前に受け付けていたすべての特許出願について、その内容が社会に公表されることで、新たな研究開発・技術開発の文献資料が遅滞なく社会に提供されることは、産業の発達という特許法の目的にも資すると考えられています。
<特許掲載公報が発行される理由>
「特許査定」が下されただけでは特許権は成立せず、特許査定謄本到達日から30日以内に1~3年分の特許料を特許庁へ納付することでようやく特許権の成立、すなわち、特許権の設定の登録ということになります。そして、特許権の設定の登録があつたときに特許庁から発行されるのが特許掲載公報です。
特許出願公開公報でも、特許掲載公報でも「願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項並びに図面の内容」を掲載しなければならないことになっています。そこで、特許出願公開公報と特許掲載公報とを比較すると、特許出願公開公報で特許出願人という表示であったところが特許権者になり、特許出願公開公報の掲載内容に対して特許番号や、登録日といった情報が追加されただけでしかないのでは?とお感じになる方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、特許査定が下される前に行われる審査で「特許を認めることができない」とする拒絶理由通知を受けた場合、特許出願人は、指摘を受けた拒絶理由を解消する目的で、特許請求している発明を補正する手続補正を行うことが一般的です。このため、特許出願公開が行われた時点の特許請求の範囲とは異なる記載の特許請求の範囲で特許査定を受けることが一般的です。
また、特許出願の際の明細書、図面に記載していた発明であれば、特許出願公開の時点では特許請求の範囲に記載していなかった発明であっても、審査の過程で特許請求の範囲に記載することが可能です。そこで、特許出願公開が行われた時点の特許請求の範囲には記載されていなかった発明で特許査定を受けることも起こり得ます。
ここで、第三者の特許権侵害行為を排除できる特許権の効力範囲、すなわち、特許発明の技術的範囲は、「願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」とされています(特許法第70条第1項)。
特許掲載公報を発行することで、特許庁で審査を受けた後の特許請求の範囲、すなわち、独占排他権である特許権の効力範囲を社会に公示することができます。特許庁での審査を受けた後の特許権の効力範囲が社会に公示されることで、いたずらに特許権侵害という紛争が発生する事態を防ぐことができます。
<特許出願公開後に特許掲載公報が発行される事情>
上述したように、特許出願公開公報は、重複研究・重複投資を抑制し、将来特許成立するものであるかどうかを問わず出願から18カ月が経過した時点で原則としてすべての特許出願についてその内容を社会に公表することで、新たな研究開発・技術開発の文献資料を社会に提供する役割を担っています。
一方、特許掲載公報は、独占排他権である特許権の効力範囲を社会に公示することで、いたずらに特許権侵害という紛争が発生する事態を未然に防止することを可能にします。また、特許掲載公報発行日から6カ月の間に限り、何人も、特許異議申立可能にすることで、特許庁審査官が把握できなかった先行技術文献等の存在によって成立すべきでなかった特許を取り消すという、いわば公衆審査の機会を与えるものになっています。
このように、特許出願公開公報と、特許掲載公報とは、それぞれの果たす役割、発行される目的が異なっていますので、既に特許出願公開公報が発行されているものであっても、特許掲載公報が発行されることになっています。
なお、重複研究・重複投資の抑制、新たな研究開発・技術開発の文献資料を社会に提供するという役割は特許掲載公報によっても担われます。
そこで、特許出願公開公報を発行する時点で既に特許掲載公報が発行されているものについては、特許出願公開公報が発行されないことが原則になっています(特許法第64条第1項)。
しかし、特許出願公開公報の発行は、原則として、特許出願後18カ月経過後、すべての特許出願について行われるものであることから、先行技術調査では特許出願公開公報を対象にすることが一般的です。
この点を考慮して特許庁では1997年(平成9年)に公報発行基準の見直しを行い、特許掲載公報を発行した場合であっても、行政サービスとして特許出願公開公報を発行することにしています。
<特許出願公開公報が発行される前の特許掲載公報(特許公報)発行>
特許掲載公報が発行されるまでには審査を受ける必要があり、一般的には審査請求後11カ月程度待たなければ審査結果を受け取れないことになっています。そこで、特許出願を行うと同時に審査請求を行って審査を受けるようにしても、特許出願公開公報が発行される出願日から18カ月が経過するまでに審査結果が確定することは多くありません。
しかし、審査請求するだけでなく、早期審査を申請することで、早期審査申請後平均3カ月以下(2017年実績)で審査結果を受け取ることができます。特許出願後、直ちに、審査請求し、早期審査の申請も行った場合、出願日から18カ月が経過する前に特許成立することがあります。
このような場合に、特許出願公開公報が発行される前に特許掲載公報(特許公報)が発行されることになります。
■ニューストピックス■
- 「特許審査の質についてのユーザー評価調査報告書」(特許庁)
特許庁は、「令和7年度特許審査の質についてのユーザー評価調査報告書」を取りまとめました。
https://www.jpo.go.jp/resources/report/user/document/2025-tokkyo/2025-tokkyo.pdf
同調査は、特許審査に対するユーザー(出願人や権利を行使される第三者等)のニーズの把握などを目的に、特許審査・国際調査など全般の質について「満足」、「比較的満足」、「普通」、「比較的不満」、「不満」の5段階で評価した結果を取りまとめたものです。
報告書によると、国内出願における特許審査全般の質についての評価(全体評価)は、上位評価割合(「満足」「比較的満足」の評価割合)が60.7%、「普通」以上の評価の割合が95.7%でした。
PCT出願における国際調査等全般の質についての評価(全体評価)は、上位評価割合が59.1%、「普通」以上の評価の割合が96.8%でした。
特許庁は、分析の結果、国内出願において、「判断の均質性」、「第29条第2項(進歩性)の判断の均質性」の項目が全体評価への影響が大きく、かつ相対的な評価が低いため、これらを優先的に取り組むべき項目と設定しました。
<判断の均質性>
「上位評価割合」(「満足」「比較的満足」)は45.1%、「普通」以上の評価割合は88.1%。
<「第29条第2項(進歩性)の判断の均質性」>
「上位評価割合」(「満足」「比較的満足」)が41.8%、「普通」以上の評価割合が84.2%
- 「3倍巻きトイレ紙」の数値限定特許、二審も特許侵害認めず(知財高裁)
従来品より3倍長いタイプのトイレットペーパーに関する特許を侵害されたとして、日本製紙クレシアが大王製紙に対して起こした訴訟の控訴審で、知的財産高等裁判所は、特許侵害を認めなかった1審・東京地裁判決を支持し、控訴を棄却する判決を言い渡しました。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-94688.pdf
大王製紙は、知財高裁による控訴棄却に対して日本製紙クレシアが上告受理の申し立てを行わず、訴訟が終結したと発表しました。
https://www.daio-paper.co.jp/wp-content/uploads/20251027_1.pdf
裁判では、商品を柔らかく仕上げるため表面に付けられた凹凸の深さが、特許で定められた数値の範囲に入るかなどが争われました。
日本製紙クレシアは、「スコッティ」ブランドで長さ3倍のトイレットペーパーを販売。2020年までに紙の表面の凹凸や包装に関する技術の特許を取得しました。
一方、大王製紙は「エリエール」ブランドで長さ3.2倍のトイレットペーパーを発売。日本製紙クレシアは、「エリエール」の凹凸の深さが特許で定めた範囲内にあるなどと主張し、2022年に製造・販売の禁止や賠償を求め、東京地裁に提訴しました。
1審の東京地裁は、「大王製紙の製品の凹凸の深さは、日本製紙クレシアの特許発明が定める数値の範囲内にあるとはいえない」として、特許権の侵害にあたらないと判断しました。
控訴審でクレシア側は、新たに凹凸の深さを測定した結果を証拠として提出しましたが、知財高裁は「証拠の内容を考慮しても特許の範囲内にあるとはいえない」として、1審に続いて特許侵害を認めず、訴えを退けました。
- 大阪・関西万博「ミャクミャク」の売上800億円(万博協会)
日本国際博覧会協会(万博協会)は、大阪・関西万博の公式キャラクター「ミャクミャク」などの公式ライセンス商品の売り上げが、8月末時点で約800億円に上ると公表しました。
https://www.expo2025.or.jp/wp/wp-content/uploads/20251007_rijikaisiryou.pdf

(商標登録第6656708号)
協会が公表した運営収支見込みによると、「ミャクミャク」などの公式ライセンス商品の販売状況については、これまでに約400社とライセンス契約を締結しており、8月末時点で約800億円の売り上げがありました。公式グッズは、販売価格の6~10%がライセンス料として万博協会に支払われる仕組みで、好調なグッズ販売にも支えられ、運営収支は当初計画を約230億円上回りました。
人気の高まりを受け、万博協会は、公式グッズの販売期間を来年3月末まで延長することを決めました。当初、閉幕日の10月13日までの予定でしたが、売り上げが好調なため、閉幕後も万博会場外の店舗やインターネットサイトで売れるようにしました。
- ノーベル生理学・医学賞と化学賞、日本人がダブル受賞
2025年のノーベル生理学・医学賞を大阪大学特任教授の坂口志文氏が、化学賞を京都大学特別教授の北川進氏が、それぞれ受賞しました。
坂口氏は「免疫応答を抑制する仕組みの発見」が、自己免疫疾患やがんなど免疫が関わる病気の予防や治療につながると評価されました。
北川氏は気体を自由に出し入れできる「金属有機構造体(MOF)の開発」が評価され、環境・エネルギー問題や新素材開発など広範な分野での応用が期待されています。
日本人研究者が生理学・医学賞を受賞するのは7年ぶりで坂口氏は6人目、化学賞は6年ぶりで北川氏は9人目。2021年以降、日本人の自然科学系の受賞はありませんでしたが、今回、同年ダブル受賞の快挙を成し遂げ、日本の研究力の底力を世界に示しました。
<ノーベル賞と基礎研究力>
日本人研究者の自然科学系3賞(物理学、化学、生理学・医学)の受賞者は、米国籍取得者を含めると計27人に上りますが、近年、授賞対象となったのは20~30年前の研究成果が多いのが現状です。今後もノーベル賞受賞につながる研究を生み出すためには、基礎研究力の強化が課題とされています。
日本の基礎研究力は国際比較で低下しています。文部科学省の科学技術・学術政策研究所が公表した「科学技術指標2025」によると、注目度の高い「トップ10%論文」数では、日本は世界で13位と低迷。
1位の中国、2位の米国に大きく差が付いています。
https://www.nistep.go.jp/research/science-and-technology-indicators-and-scientometrics/indicators
日本全体の科学技術力・経済力を底上げするため、政府は「第7期科学技術・イノベーション基本計画」において、基礎研究力の強化に向けた検討を進め、今後10年以内に「トップ10%論文」数で、世界3位以内を目指すとしています。
- 「日本成長戦略会議」を新設、先端技術に積極投資(政府)
政府は、日本の成長戦略の具体策を議論する「日本成長戦略会議」を新設する方針です。
https://www.kantei.go.jp/jp/104/statement/2025/1024shoshinhyomei.html
高市首相は所信表明演説で、人工知能(AI)や半導体、量子、バイオなどの先端技術分野に積極的な投資を図る「危機管理投資」で経済成長を実現すると訴え、日本成長戦略会議の設置を表明しました。城内実経済財政相が担当し、「先端技術を開花させることで日本経済の強い成長の実現を目指す」と説明しています。
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発行元: 外堀知的財産事務所
弁理士・一級知的財産管理技能士 前田 健一
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