※輸入差し止め件数が過去最多を更新しました 外堀知的財産事務所 メールマガジン 2024年10月号

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◇◆◇ 外堀知的財産事務所 メールマガジン ◇◆◇

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                       2024年10月号

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┃ ◎本号のコンテンツ◎

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┃ ☆知財講座☆

 (9)特許出願に対する特許庁への情報提供(刊行物提出)

┃ ☆ニューストピックス☆

「パルワールド」開発企業を特許権侵害で提訴(任天堂)

┃ ■輸入差し止め件数が過去最多を更新(財務省関税局)

┃ ◆税関を活用した「輸入差止申立制度」

┃ ■「特許審査の質についてのユーザー評価調査」を報告(特許庁)

■インクカートリッジ訴訟、リサイクル会社の控訴を棄却

┃ ■2024年度知的財産権制度入門テキストを公表(特許庁)

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財務省は、全国の税関が2024年1〜6月に偽ブランド品などとして輸入を差し止めた件数が過去最多を更新したと発表しました。

近年、電子商取引(EC)の利用が拡大し、模倣品の流入が深刻な問題となっています。

そこで、今号では、模倣品対策の有効な手段の1つである税関を活用した「輸入差止申立制度」について紹介します。

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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃

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(9)特許出願に対する特許庁への情報提供(刊行物提出)

【質問】

特許調査でライバルメーカーが行っている特許出願を発見しました。この特許出願で特許請求されている発明は当業界では従来から行っていたことの延長線上にあるものなので、特許は成立しないのではないかと思います。

ライバルメーカーの特許出願に特許成立することを阻止する目的で何かできることはありますか?

【回答】

特許出願で特許請求されている発明が、新規性、進歩性などの特許性を備えていないと思われる、等の事情について、特許庁に情報提供することができます(特許法施行規則第13条の2)。

一般的に、特許出願で特許請求されている発明の新規性や進歩性などを否定する根拠になると思われる先行技術文献を提出する手続で「刊行物提出」と呼ばれます。

<情報提供できる人>

何人も刊行物提出できます。

なお、特許庁へ提出する「刊行物提出書」における「提出者」の欄の「氏名又は名称」、「住所又は居所」に「省略」と記載することで、匿名で刊行物提出を行うことができます。

<情報提供の対象となる特許出願>

特許庁に係属している特許出願に対して刊行物提出できます。

特許庁の審査で拒絶査定が確定した等で特許庁に係属しなくなった特許出願に対しては刊行物提出できません。

なお、対象の特許出願に審査請求が行われているかどうかに関係なく刊行物提出を行うことができます。

刊行物提出は提出する刊行物を特許庁での審査に利用してもらう目的で行うものです。

そこで、J-Plat Patでの検索で、審査請求が行われているが審査請求後数カ月しか経過しておらず、まだ特許庁審査官が審査に着手していないと思われるような特許出願や、まだ審査請求が行われていない特許出願に対して刊行物提出を行うのが一般的です。

<提出することができる情報>

対象出願で特許請求している発明(=「特許請求の範囲」の請求項に記載されている発明)が、新規性、進歩性欠如により特許を受けることができない旨の情報(特許出願前に頒布されていた刊行物、インターネットを通じて公衆に利用可能となった情報、等)を提出できます。

特許出願の技術分野に関係している業界内で頒布されている雑誌などの刊行物は特許庁が収集している先行技術情報の中に含まれていないことがあります。

そこで、J-Plat Patの検索で発見した先行技術文献(特許出願公開公報、等)だけでなく、雑誌や、業界紙・誌、発行日を確定できる宣伝・広告物なども刊行物提出で提出することがあります。

<提供された情報の取扱い>

審査官は、提供された刊行物については、原則、その内容を確認し、審査において有効活用を図ることになっています。

 なお、特許出願の審査は職権探知主義になっていて、審査を受けている発明が拒絶理由を有するものであるかどうかは職権で調査すべき事項になります。

そこで、刊行物提出が行われた場合に、提出された刊行物の記載によって審査している発明に対して新規性・進歩性欠如の拒絶理由があると認められた場合に審査官がその旨の拒絶理由を通知するのは当然ですが、刊行物提出が行われた場合であっても、審査している発明の新規性、進歩性を検討・判断するために必要な先行技術調査が通常の審査の場合と同様に行われます。

そこで、刊行物提出で提出された刊行物で新規性欠如・進歩性欠如の拒絶理由を構成できない場合であっても、審査官が独自に行った先行技術調査の結果に基づいて新規性欠如、進歩性欠如の拒絶理由が通知されることがあります。

<特許出願人への通知>

刊行物提出があった事実は特許出願人に通知されます。

刊行物提出で特許庁に提出された刊行物は、特許庁から閲覧に供せられ、誰でもが閲覧申請を行うことで内容を知ることができます。

特許出願人も刊行物提出があった旨の通知を特許庁から受けた後、閲覧申請を行って、提出された刊行物の内容を確認できます。

特許出願人が審査請求を行う前に刊行物提出が行われ、特許出願人がその内容を把握、確認して、「これでは、審査を受けても新規性、進歩性欠如と判断されて特許取得を望むことができない」と判断した場合には、期限(出願日から3年)までに審査請求を行わず、特許出願が取り下げ擬制によって消滅することもあり得ます。

しかし、一般的には、提出された刊行物以外の情報についても調査、審査を行ってその結果が拒絶理由として特許庁から通知されるのを待つことになると思われます。

<情報提供者へのフィードバック>

刊行物提出で提出した刊行物の利用状況については、提出者が希望することで特許庁からフィードバックを受けることができます。

この場合は、刊行物等提出書にその旨を記載することになります。

なお、これは利用状況を確認できるだけのものです。提出した刊行物を審査官が新規性・進歩性欠如の拒絶理由に利用し、その旨の拒絶理由を通知したことに対して特許出願人が拒絶理由解消の目的で提出した意見書・補正書の内容に関して何らかの意見申し立てを行うことはできません。

あくまでも、審査に利用してもらう先行技術文献としての刊行物提出を行えるだけです。

現状では、J-Plat Patで「経過情報」を確認することで、提出した刊行物が拒絶理由に利用されたかどうかを簡単に確認できます。

■ニューストピックス■

「パルワールド」開発企業を特許権侵害で提訴(任天堂)

人気ゲーム「パルワールド」(Palworld)が複数の特許権を侵害しているとして、任天堂は、「ポケットモンスター」のライセンス事業を手がける「ポケモン」と共同で、ゲームを開発した「ポケットペア」に対し、侵害行為の差し止めと損害賠償を求める訴えを東京地方裁判所に起こしたと発表しました。

https://www.nintendo.co.jp/corporate/release/2024/240919.html

「パルワールド」は、本年1月の発売から約1カ月で総プレーヤー数が2500万人を突破するなど、大ヒット作として話題となりました。一方で、デザインが「ポケモンシリーズ」に類似している部分が多いとの指摘がユーザーから相次ぎましたが、今回の訴訟は、著作権ではなく特許権侵害の訴えとなっています。「ポケモン」のデザインではなく、ゲームシステムなど別の部分が問題になったとみられます。

任天堂は、「十分な調査を行ったうえで提訴する判断に踏み切った」としていますが、その経緯や特許権侵害に関する具体的な内容などは裁判に影響を及ぼすとして明らかにしていません。

●輸入差し止め件数が過去最多を更新(財務省関税局)

財務省は、全国の税関が本年6月までの半年間に知的財産権侵害を理由に偽ブランド品などの輸入を差し止めた件数が1万8153件だったと発表しました。前年同期比で16.2%増、過去最多を更新しました。

https://www.mof.go.jp/policy/customs_tariff/trade/safe_society/chiteki/cy2024_1/index.html

2022年10月の改正関税法の施行で、海外事業者から送られる模倣品は個人で使用する場合でも、新たに税関の取り締まりの対象となったことが主な要因です。

物品数は72万9549点と前年同期比で5.6%増え、2年連続で60万点を上回りました。

権利別でみると、偽ブランド品など、商標権侵害が全体の95%の1万7334件、偽のキャラクターグッズなど、著作権侵害が685件。

品目別では、衣類が全体の件数の32.0%で、次いで財布やハンドバッグなどが20.1%、靴類が11.1%。

財務省は、「公式で販売しているものと比べて価格が極端に安い場合や品質表示が確認できない商品、また、医薬品や電気製品などの模倣品は、健康や安全を脅かすおそれもあるため、正規ルートで購入してほしい」と呼びかけています。

◆輸入差止申立制度◆

「輸入差止申立制度」とは、全国の税関で海外から輸入される侵害物品を「水際」で排除することができる制度です。

https://www.customs.go.jp/mizugiwa/chiteki/pages/b_001.htm

この制度を利用すれば海外で違法に製造された模倣品が日本国内で流通してしまう前に阻止できるので、海外から輸入される模倣品対策に有効です。裁判に比べて低コストであり、結果が出るのが早いのもメリットです。

「輸入差止申立制度」では、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権などを侵害する貨物が輸入されようとする場合、権利者が税関長に対して、関税法に基づき、自己の権利を侵害する貨物の輸入を差し止めるよう申し立てることができます。

申立では、輸入者を特定する必要はなく、侵害物品が市場に出回っていることの証明ができれば、海外から輸入された時点で侵害物品を排除することができるため、侵害物品の出所を特定できない場合も、この方法を使うことができます。

申立には、侵害の事実を説明する侵害被疑物品・その写真、弁理士が作成した鑑定書などが必要になるほか、税関で侵害物品であることを識別できるサンプル、写真、カタログなどを提出します。

申立が受理されれば、侵害品は税関で差し止められることになります。

◆「きのこの山型ワイヤレスイヤホン」で輸入差止を申し立て

明治は、「きのこの山型ワイヤレスイヤホン」の模倣品が製造されていることを確認したため、商標権に基づき税関に輸入差し止めを申し立て、6月に受理されたと発表しました。

https://www.meiji.co.jp/corporate/pressrelease/2024/0924_01

「きのこの山イヤホン」は今年3月26日に3500台限定で発売し、即日完売しました。一方、国内外の通販サイトでイヤホンケースに「meiji」や「きのこの山」と記載された模倣品が販売されていました。

同社では、模倣品が製造されていることを確認したうえで、商標権に基づき税関に輸入差し止め申し立てを行いました。この申し立ては6月14日に受理されており、模倣品は税関で輸入を阻止されることになりました。

「特許審査の質についてのユーザー評価調査」を報告(特許庁)

特許庁は、「令和6年度特許審査の質についてのユーザー評価調査報告書」を公表しました。

https://www.jpo.go.jp/resources/report/user/document/2024-tokkyo/2024-tokkyo.pdf

報告書によると、国内出願における特許審査全般の質についての評価(全体評価)は、「普通」以上の評価の割合が97.4%、上位評価割合(「満足」・「比較的満足」の評価の割合)が60.9%でした。

また、PCT出願における国際調査等全般の質についての評価(全体評価)は、「普通」以上の評価の割合が96.8%、上位評価割合が59.4%でした。

特許庁は、国内出願において、「判断の均質性」、「第29条第2項(進歩性)の判断の均質性」の項目が、全体評価への影響が大きく、かつ相対的な評価が低いことが分かったため、これらを優先的に取り組むべき項目と設定しました。

●インクカートリッジ訴訟、リサイクル会社の控訴棄却(大阪高裁)

プリンター用インクカートリッジの仕様を変えてリサイクル品の販売を妨げたのは独占禁止法に違反するとして、リサイクル品の製造販売会社「エコリカ」が「キヤノン」に仕様変更の差し止めと損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で、大阪高裁は、一審判決を支持し、エコリカ側の控訴を棄却しました。

一審・大阪地裁の判決によると、エコリカはキヤノンの使用済みインクカートリッジを回収し、インクを再注入して純正品より安い価格で販売。キヤノンが2017年に発売した製品でインク残量を表示させるICチップの仕様を変更し、再注入してもプリンター上は「インクなし」と表示されるようになりました。

エコリカ側は、インクの残量データの初期化が不可能となり、リサイクル品を販売できなくなったことで、キヤノンの純正品が市場を独占したと主張していました。

一審判決は、インク残量が表示されなくても、カートリッジの本質的な性能に大きな影響を与えないと指摘。「消費者が純正品の購入を余儀なくされているわけではない」とし、独禁法違反に当たらないと判断しました。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/207/092207_hanrei.pdf

●2024年度知的財産権制度入門テキストを公表(特許庁)

特許庁は「2024年度知的財産権制度入門テキスト」を公表しました。

https://www.jpo.go.jp/news/shinchaku/event/seminer/text/2024_nyumon.html

テキストは、特許、実用新案、意匠、商標の各制度や、不正競争防止法、著作権法などを網羅し、知的財産権について初めて学ぶ方にとっても、わかりやすくその概要が示されております。社内の研修用のテキストとしても活用することができます。

また、各種支援策や地域におけるサービス等についても紹介しています。

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発行元: 外堀知的財産事務所

弁理士・一級知的財産管理技能士 前田 健一

〒102-0085 東京都千代田区六番町15番地2鳳翔ビル3階

TEL:03-6265-6044

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