※特許出願件数が回復基調 外堀知的財産事務所 メールマガジン 2025年5月号
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2025年5月号
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┃ ◎本号のコンテンツ◎
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┃ ☆知財講座☆
┃(16)「物」の発明と「方法」の発明
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┃ ☆ニューストピックス☆
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┃ ■特許出願件数が回復基調「特許庁ステータスレポート2025」
┃ ■「コンセント制度」を適用した初の商標登録(特許庁)
┃ ◇「コンセント制度」の要件と手続上の留意点◇
┃ ■特許表示の機能向上で知的財産の侵害抑止を検討(特許庁)
┃ ■日本、バッテリー技術分野で強さ示す(欧州特許庁:EPO)
┃ ◆助成金情報 令和7年度外国特許出願費用助成事業(東京都)
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特許庁は、国内外の知的財産に関する最新の統計情報などをまとめた「特許庁ステータスレポート2025」を公表しました。
同レポートによると、2024年の特許庁への特許出願件数は30万6855件で、前年比2.2%増となりました。中小企業の出願件数も過去最高を更新するなど、近年減少傾向にあった特許出願件数は回復基調にあることが示されました。
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┃知┃財┃基┃礎┃講┃座┃
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(16)「物」の発明と「方法」の発明
【質問】
方法で特許をとるよりも物で特許をとる方がよいと言われたことがあります。どのような違いがあるのでしょうか?
【回答】
「方法よりも物で特許をとる方がよい」というのはよく言われることです。なぜこのように言われるのか説明します。
<発明のカテゴリー>
「特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有する」(特許法第68条)というのが特許権の独占排他的な効力になります。
ここで「特許発明」とは特許を受けている発明のことで、「業として」とは個人的家庭的な実施行為は含まれない(第三者の特許権が現存している場合であっても、その特許権に係る特許発明を個人的に、あるいは家庭内で使っているだけであるなら特許権侵害にならない)ことを意味しています。
「実施」については、発明のカテゴリーごとにいかなる行為が実施になるのか定義されています(特許法第2条第3項)。
発明のカテゴリーとして、大きくは、「物」の発明と、「方法」の発明に分類されます。
「・・し、次に・・する」、「・・という工程と、・・という工程とを備えている」のように、「時」の要素を必須にしているのが「方法」の発明とされ、一方、「時」の要素を必要にしていないのが「物」の発明になります。
機械、器具、装置などの製品的な物や、化学物質、組成物、薬剤などの材料的な物などが「物」の発明の代表例になります。コンピュータプログラムは「物」の発明に分類されています。〇〇システムと表現される発明も「物」の発明に分類されます。
「方法」の発明には「物を生産する方法」の発明と、それ以外の「方法」の発明があります。
「物を生産する方法」以外の「方法」発明を「単純方法」の発明ということがあります。「単純方法」には、物を使用する方法、物を取り扱う方法、制御方法、測定方法、通信方法、修理方法、等があります。
<「物」の発明>
物の発明については、その物を生産(製造)する行為、使用する行為、譲渡等する行為(例えば、販売)、貸し渡す行為、輸出する行為、輸入する行為、その物についての譲渡等の申し出(譲渡等のための展示を含む)が実施行為になります。
特許権者が特許発明を実施する権利を専有しているのですから、第三者が特許発明品を製造、販売、等している場合には特許権侵害であるとして警告書を送り、製造、販売などの行為の差し止めを求める差止請求訴訟や、損害賠償請求訴訟を裁判所に提起することができます。
物の発明の場合には、同業他社が製造、販売している製品を購入し、分解等により分析することで特許発明が使用されているものであるかどうか、すなわち特許権侵害品であるとして追求できるものであるかどうかを確認することができます。
<「単純方法」の発明>
「単純方法」の発明の場合にはその方法を使用する行為が実施行為になります。この場合、制御方法、測定方法、通信方法、修理方法、等の単純方法が同業他社の工場内などにおいて使用されているかどうかを確認することは簡単ではありません。
<「物を生産する方法」の発明>
「物を生産する方法」の発明の場合にはその方法を使用する行為が実施行為になり、また、その方法により生産した「物」を使用する行為、譲渡等する行為(例えば、販売)、貸し渡す行為、輸出する行為、輸入する行為、その物についての譲渡等の申し出(譲渡等のための展示を含む)も実施行為になります。
そこで、「物を生産する方法」を実施して生産した「物」に、当該「物を生産する方法」を使用した痕跡が残るものであるならば、市場で販売されている「物」を購入してきて、分解等により分析することで特許発明が使用されているものであるかどうか、すなわち特許権侵害品であるとして追求できるものであるかどうかを確認することができます。
「物を生産する方法」を実施して生産した「物」に当該「物を生産する方法」を使用した痕跡が残らないものであっても、従来は、大量に市場に出回ることがなかった「物」が、当該特許取得した「物を生産する方法」が特許出願公開された後に同業他社から市場に大量に提供されるようになった場合には、当該特許取得した「物を生産する方法」が勝手に使用されている可能性があると考えられます。
<「物」、「方法」での特許取得>
以上で説明したように、発明のカテゴリーに応じてどのような行為が特許権侵害になるのか相違があり、単純方法の発明や、物を生産する方法の発明の場合には、第三者の特許権侵害行為を発見して、特許権侵害であるとして排除することが、物の発明に比較して容易ではないと考えられています。
同業他社の工場内でしか使用されない「単純方法」であって、特許権侵害で追及することが容易でない場合には、特許出願を行わずに会社の営業秘密、ノウハウとして保護を図ることが検討されるのはこのためです。
しかし、「物」の発明の場合にも、特許出願を行うかどうかを検討する際、遅かれ早かれ同業他社もこの技術段階に到達し、開発・発明すると思われるようなものである場合には一日でも先に特許出願した者でなければ特許取得が認められないことを考慮して特許出願することがあります。
このようなことは「単純方法」の発明、「物を生産する方法」の発明の場合にも当てはまります。「方法発明だから」ということで特許出願を行わないでいたところその方法発明について他社が特許出願して特許権取得し「当社では特許取得した当社独自の〇〇方法を使用しています。」と他社が積極的に宣伝、営業活動を行うようになってしまった、となることもあります。
特許出願を行わずに営業秘密、ノウハウで保護を図るのか、それよりも他社に先がけて特許出願して独占排他権たる特許権の取得を目指す方がよいのか、その際、「物」、「単純方法」、「物を生産する方法」どのような表現で特許取得を目指すか、専門家である弁理士に相談されることをお勧めします。
■ニューストピックス■
- 特許出願件数が回復基調「特許庁ステータスレポート2025」●
特許庁は、国内外の知的財産に関する最新の統計情報などをまとめた「特許庁ステータスレポート2025」を公表しました。
https://www.jpo.go.jp/resources/report/statusreport/2025/index.html
<特許出願件数>
2024年の特許庁への特許出願件数は30万6855件で、2023年の30万133件から6722件増(前年比2.2%増)となりました。このうち、国際特許出願件数は7万2890件で、2023年の7万5687件を2797件下回りました。特許出願件数(国際特許出願を除く)は、
近年減少傾向にありましたが、2024年は2023年に続いて前年を上回り、回復基調にあることが示されました。
日本の中小企業の特許出願件数をみると、2022年、2023年と連続で増加し、2023年は過去最高の4万221件となりました。
日本国特許庁を受理官庁としたPCT国際出願の件数は、過去最高を記録した2019年の5万1652件から漸減傾向にあり、2024年は4万6751件でした。
<一次審査通知までの期間と権利化までの期間>
2023 年度における一次審査通知(First Action)までの平均期間(FA期間)は、9.4 か月、権利化までの期間は、13.8か月と政府目標を達成しています。
- 「コンセント制度」を適用した初の商標登録(特許庁)
特許庁は、2024年4月に施行された「コンセント制度」を適用した初の商標登録を行ったと発表しました。
https://www.meti.go.jp/press/2025/04/20250407001/20250407001.html
「コンセント制度」とは、先行登録商標と同一又は類似する商標であっても、先行登録商標の権利者の承諾(コンセント)があり、混同のおそれがなければ、類似する後願商標の併存登録を認める制度です。2024年4月1日施行の改正商標法で導入され、施行日
以後にした出願について適用されます。
今回、コンセント制度を適用し、初登録されたのは、酒造メーカーの株式会社車多酒造による「玻璃」。ギフト販売のシャディ株式会社が先行登録商標を持っていましたが、両社間の併存登録の同意をもとに、承諾を得た出願に対し、特許庁が混同のおそれがないと判断したことで、登録が認められました。
◇「コンセント制度」の要件と手続上の留意点◇
日本ではこれまでコンセント制度が導入されていなかったので、代わりとして「アサインバック」という手続が行われていました。
「アサインバック」とは、出願人の名義を一時的に引用商標(類似する先行商標)の権利者の名義に変更することで、引用商標権者と出願人の名義を一致させて拒絶理由を解消し、登録査定を得た上で、引用商標権者から元の出願人に再度名義変更を行う手続です。アサインバックは、名義変更を繰り返す必要があるため、手続が煩雑化してしまう課題がありました。
特許庁では、コンセント制度の導入により、新規事業でのブランド選択の幅が広がることを通じて、中小・スタートアップ企業の新たなチャレンジを後押しするとしています。
現在も従来のアサインバックによって商標登録を受けることが可能ですが、ここでは、コンセント制度の要件と手続上の留意点を紹介します。
<手続の留意事項>
コンセント制度で注意しなければならない点は、先行する登録商標の権利者の同意があったとしても、商標自体の類似性等により、需要者(消費者)に混同を生じるおそれがあると判断された場合には、登録は認められないことです。
<コンセント制度の登録要件>
①先行商標権者の承諾を得ていること
②先行商標権者との間で「出所混同のおそれがない」こと
「混同を生ずるおそれがない」に該当するか否かについては、下記の①から⑧のような、両商標に関する具体的な事情を総合的に考慮して判断するとされています。
例えば、引用商標と同一の商標であって、同一の指定商品又は指定役務について使用するものは、原則として混同を生ずるおそれが高いものと判断されることになっています。
①両商標の類似性の程度
②商標の周知度
③商標が造語よりなるものであるか、又は構成上顕著な特徴を有するものであるか
④商標がハウスマークであるか
⑤企業における多角経営の可能性
⑥商品間、役務間又は商品と役務間の関連性
⑦商品等の需要者の共通性
⑧商標の使用態様その他取引の実情
コンセント制度による商標登録を受けるためには、単に引用商標権者の承諾を得るだけではなく、混同のおそれが生じないように、あらかじめ、両社間で商標の使用態様などについて、詳細に規定するなどの留意が必要であるとされています。
- 特許表示の機能向上で知的財産の侵害抑止を検討(特許庁)
特許庁は、知的財産の侵害抑止へ向け、訴訟提起を要さずに事前に抑止効果が期待できる観点から、特許表示の機能向上に関する検討を集中的に進める方針です。
特許表示については、現状、知的財産の侵害抑止の手段として一般に認識されておらず、マーケティング的な位置づけが強いと指摘されています。
一方、訴訟と比較すると対応に要する負担が軽く、訴訟提起を要さずに事前に抑止効果が期待できる可能性があります。
また、特許表示の活用が広がれば、他社の特許権の存在に気付きやすくなることから、特にクリアランス(商品やサービスを世の中に出していく前に、その商品やサービスが他者の特許権を侵害するものではないかを確認)体制に懸念がある中小企業やスタートアップ企業では、クリアランス負担の軽減につながる点でも利点があると考えられています。
特許表示の活用は、競合する企業に対して裁判手続を経ない侵害の牽制策として現実的な方向性と考えられることから、特許庁は、今後、特許表示の機能向上に関する検討を進める方針です。
- 日本、バッテリー分野で強さ示す(欧州特許庁:EPO)
欧州特許庁(EPO)は、「2024年特許指数」を発表しました。報告書によると、欧州特許庁が24年に世界各国から受理した特許出願件数は19万9264件(前年比0.1%減)でした。
国ごとの出願件数をみると、トップ5は米国、ドイツ、日本、中国、韓国の順。米国は4万7,787件(前年比0.8%減)、ドイツは2万5,033件(0.4%増)、日本は2万1,062件(2.4%減)、中国は2万81件(0.5%増)、韓国は1万3,107件(4.2%増)。
技術ごとの出願件数をみると、機械学習や人工知能(AI)分野を含むコンピュータ技術が1万6,815件で、前年比3.3%増となり、最も出願件数の多い技術分野となりました。
日本の主要分野である電気機械、装置、エネルギー分野では、2023年と比較して8.4%増加し、日本からは2,077件の特許出願がありました。バッテリー技術分野では、日本企業による欧州特許庁への特許出願件数は、2023年と比較して20%増と大幅に伸びるなど、バッテリー技術において日本の強さを示しました。
◆助成金情報 令和7年度外国特許出願費用助成事業(東京都)◆
東京都は、中小企業の外国特許出願から中間手続に要する費用の一部を助成する「外国特許出願費用助成事業(令和7年度)」の受付を5月8日(水)から開始します。
https://www.tokyo-kosha.or.jp/chizai/josei/tokkyo/index.html
<申込資格>
東京都内の中小企業者(会社及び個人事業者)、中小企業団体、一般社団・財団法人(1年度1社1出願に限る)
※過去に東京都知的財産総合センターから助成金の交付を受けている者は、「活用状況報告書」を所定の期日までに提出していること。
<助成内容>
助成率:1/2以内
助成限度額:400万円(ただし、出願に要する経費のみの場合は、300万円)
<対象経費>
外国出願手数料、審査請求料・中間手続費用(審査の早期化に関する制度の利用に係る請求費用を含む。)、代理人費用、翻訳料、先行技術調査費用、国際調査手数料、国際予備審査手数料等
<申請受付期間>
第1回 令和7年5月8日(水)~5月22日(木) 17時まで
第2回 令和7年10月1日(水)~10月17日(金) 17時まで
発行元: 外堀知的財産事務所
弁理士 ・ 一級知的財産管理技能士 前田 健一
〒102-0085 東京都千代田区六番町15番地2
鳳翔ビル3階
TEL:03-6265-6044
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