※「知的財産取引に関するガイドライン」改正 外堀知的財産事務所 メールマガジン 2024年12月号

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                       2024年12月号

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┃ ◎本号のコンテンツ◎

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┃ ☆知財講座☆

┃ (11)「ちょっとした工夫」でも特許は取得できる

┃ ☆ニューストピックス☆

┃ ■「知的財産取引に関するガイドライン」を改正(中小企業庁)

┃ ■AI関連発明の適用分野が拡大(特許庁)

┃ ■映画「シン・ゴジラ」の立体商標の登録を認定(知財高裁)

┃ ■文字起こしの「ネタバレサイト」で初の逮捕者(宮城県警)

┃ ■特許出願非公開制度の解説漫画を公開(特許庁)

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中小企業庁は、知的財産に係る取引の基本的な考え方などを示した「知的財産取引に関するガイドライン」を改正しました。

今回の改正では、大企業が知的財産権上の責任を中小企業に一方的に転嫁する行為(責任転嫁行為)を禁止することなどが明確化されました。

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(11)「ちょっとした工夫」でも特許は取得できる

【質問】

当社で従来から使用している製造装置に少し改良を加えたところずいぶんと使い勝手がよくなり、生産性も向上しました。

ほんのちょっとした工夫に過ぎないのですが、おそらく、この業界ではまだ採用されていないと思います。この程度の工夫では特許出願しても特許は認められないでしょうか?

【答え】

発明の内容を知った後では「ほんの小さな工夫、改善に過ぎない」と考えるようなものでも、新規性、進歩性、等の特許が認められるための条件を備えているならば特許成立します。

<特許性に関して後知恵での判断は禁物>

特許庁の審査官が審査を行う際に注意を払うことの一つに、後知恵に陥らないようにする、があります。

特許出願にあたって、発明者・特許出願人は、発明の目的(発明が解決しようとする課題)、課題を解決するために発明者・特許出願人が採用した工夫、その工夫によって課題が解決されるメカニズム、等を、特許庁に提出する明細書、図面などに十分に説明します。

審査官は、提出されているこの明細書、図面の内容を熟読した上で、特許請求されている発明に特許を与えることができるかどうかを検討・判断します。いわば、手品の種明かしを教えてもらった後に手品を見ているようなものです。

特許出願の明細書、図面を読むことで把握した知識、いわば、後知恵に基づいて、特許請求されている発明の特許性を検討・判断すると、「特許請求されている発明は簡単に考えつくことができたもので、進歩性欠如ではないか」と、なってしまうことがあるので、これを戒めるものです。

<特許成立に要求される主要な条件>

特許庁の審査で特許が認められるために要求される主要な条件は3つあります。

特許請求している発明が産業上利用できるものであること、特許出願の時点で世界のどこにも存在せず・知られておらず・使用されていなかったこと=新規性を有すること、特許出願前に知られていた発明・技術・知識に基づいて特許出願の時点で簡単・容易に発明できたものでないこと=進歩性を有すること、です。

<産業上の利用可能性>

会社の事業で使用している装置、会社の事業で製造しているもの、等についての改善、改良であれば、一般的に、一点目の産業上の利用可能性を満たします。

<新規性>

2点目の新規性ですが、特許請求している発明と対比される「先行技術」として、日本国内又は外国において、特許出願前に、公然知られた発明、公然実施をされた発明、頒布された刊行物に記載された発明又はインターネット等を通じて公衆に利用可能となった発明があげられています(特許法第29条第1項各号)。

世界中のどこででも知られていなかったし、使用されてもいなかった、なんてことが要求されるのでは、「新規性のある発明」と認められるのは難しいのでは?と、お考えになるかもしれません。

しかし、特許審査基準では、審査官は、特許請求されている発明が新規性を有しているか否かを、特許請求されている発明と、新規性及び進歩性の判断のために引用する先行技術(引用発明)とを対比した結果、特許請求されている発明と引用発明との間に相違点があるか否かにより判断し、「相違点がある場合」は、審査官は、特許請求されているが「新規性を有していると判断する」としています。

今回のご質問の「従来から使用している製造装置に少し改良を加えた」という「工夫」は、何らかの効果(今回の場合は、使い勝手の向上、生産性向上)を発揮させる、技術的な考え方ですから、抽象的な概念です。

この抽象的な概念とまったく同一の先行技術(引用発明)が存在しているということはあまりありません。発明は、抽象的に表現されるものです。新規性及び進歩性の判断のために引用される先行技術(引用発明)も抽象的な概念で表現されています。

このため、新規性及び進歩性の判断のために引用される先行技術(引用発明)と、特許請求されている発明とを対比すると、どんなに小さくても、どこか一つくらい、相違しているところ、相違点が存在するものです。

このように、ほんの小さな相違点でも、従来知られていた、従来使用されていた知識、技術と相違しているところがあるならば、2点目の新規性も存在する、ということになります。

事実、特許庁の審査において、審査官が通知した「新規性欠如」を指摘する拒絶理由に対して特許出願人が特許請求している発明の表現を補正する対応を行ったにもかかわらず、「『新規性欠如』という拒絶理由は解消していない」として審査官の最終判断たる拒絶査定が下されるケースはあまり多くありません。

<進歩性>

特許庁の審査で、審査官が通知した拒絶理由に対して意見書・補正書を提出し、審査官に再考を求めたにもかかわらず「拒絶理由は解消していない」として拒絶査定が下される場合のほとんどは「進歩性欠如」という拒絶理由です。

この進歩性に関しても、今回採用した工夫によって、使い勝手の向上、生産性向上というような特有の効果が発揮されているのであれば、進歩性の存在が認められて特許成立することがあり得ます。

特許庁の審査官が特許請求されている発明についての進歩性の有無を検討・判断するときには、まず、調査で発見した先行技術の中から、進歩性の有無を検討・判断することに最も適した一の引用発明(先行技術)を選んで主引用発明とします。

そして、この主引用発明と、特許請求されている発明との一致点・相違点を認定し、この相違点に関し、他の引用発明(副引用発明)を適用したり、技術常識を考慮したりして、「特許請求している発明は、先行技術(引用発明)に基づいて簡単・容易に発明できた」と論理づけることができるかどうかを検討します。

主引用発明と、特許請求されている発明との間の相違点が、「主引用発明からの設計変更」程度のものでしかない、あるいは「先行技術の単なる寄せ集め」に過ぎない、等と認定できるような場合には、「特許請求している発明は、先行技術(引用発明)に基づいて簡単・容易に発明できたので進歩性欠如」と論理づけられることになります。

一方、主引用発明と、特許請求されている発明との間の相違点が前記のようなものではなく、その相違点を埋めるのに適した他の先行技術(副引用発明)を調査で発見できなかったような場合には、「特許請求している発明は、先行技術(引用発明)に基づいて簡単・容易に発明できた」という論理づけを行うことができなくなり、進歩性の存在が認められることになります。

このため、今回採用した工夫が極めて簡単なものであって、後から考えると、だれでも発想できたものではないか、と思われるような場合であっても、上述した論理付けを行うことができないならば進歩性が認められて特許成立することがあります。

「簡単な工夫に過ぎないので誰が特許出願しても特許成立しないだろう」と考えていたところ、同業他社が特許出願し、特許取得したことで、会社の事業に支障が生じることもあり得ます。

そこで、会社の事業を行っている過程で誕生した簡単な工夫、改良であっても、特許取得の可能性があるのかどうか、等を専門家である弁理士に相談されることをお勧めします。

 

■ニューストピックス■

  • 「知的財産取引に関するガイドライン」を改正(中小企業庁)

中小企業庁は、知的財産に係る取引における基本的な考え方などを示した「知的財産取引に関するガイドライン」を改正しました。

https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/torihiki/chizai_guideline.html

同ガイドラインは、不適正な取引慣行の抑止のために策定されたもので、今回の改正では、大企業が知的財産権上の責任を中小企業に一方的に転嫁する行為(責任転嫁行為)を禁止することなどが明確化されました。

<主な改正事項>

改正内容は、実際の取引において発生し得るシチュエーションを想定しつつ、状況に応じた適切な責任分担の考え方や、帰責事由がない受注者が発注者に対して行使すべき権利などについて明確化しました。

・第三者の知的財産権を侵害しないことに係る保証責任や、その保証に当たっての調査費用などの負担については、発注者・受注者が果たした役割などに応じて適切に分担し、受注者に一方的に転嫁してはならない

・発注者から受注者への「指示」は、口頭での助言や情報提供のような正式な書面によらない形式のものも含み得る

・受注者に帰責事由がないにもかかわらず、受注者が第三者から訴えられた場合には、発注者は、受注者からの目的物の仕様決定に係る経緯などの開示要請や、第三者との間に生じた損害賠償についての求償などに応じるべきである

また、中小企業庁では、知財取引を行う際の「契約書のひな形」として契約種別ごとの契約条項のサンプル(秘密保持契約・共同開発契約・開発委託契約・製造委託契約)も公表していますが、今回、「契約書のひな形」も併せて改正しました。

<契約書ひな形の改正事項>

・責任転嫁行為を含む契約が締結されることを防止するに当たって、中小企業が参照すべきモデル条項を新設

 

  • AI関連発明の適用分野が拡大(特許庁)

特許庁は、国内外のAIに関する特許出願動向の調査報告書を発表しました。

https://www.jpo.go.jp/system/patent/gaiyo/sesaku/ai/ai_shutsugan_chosa.html

報告書によると、AI関連発明の出願件数は2014年以降急激に増加しており、2022年の出願件数は約10,300件でした。

AI関連発明は、AIコア発明に加え、AIを各技術分野に適用した発明を含めたものと定義しており、近年、AI適用技術が急増しています。

AI関連発明の適用分野をみると、医学診断、制御系・調整系一般、交通制御、画像処理、ビジネス、情報一般、音声処理、マニピュレータ、材料分析、情報検索・推薦、映像処理、自然言語処理など多岐にわたっています。特に画像処理の出願件数の増加は顕著で、AIコア技術よりも多くなっています。

また、主分類の数も増加傾向にあり、AI技術の適用先が拡大していることがうかがえます。

 

  • 映画「シン・ゴジラ」の立体商標の登録を認定(知財高裁)

特許庁が「商標登録を認めることができない」とした映画「シン・ゴジラ」の立体的形状からなる商標(立体商標)について、知財高裁は「登録は認められるべきだ」とする判決を下しました(令和6年10月30日)。

知財高裁 令和6年(行ケ)第10047号 拒絶審決取消請求事件

https://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/479/093479_point.pdf

商標登録が認められるべきとされた立体商標は以下です。

商願2020‐120003号の商標出願公報

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1801/TR/JP-2020-120003/40/ja

本願(商願2020‐120003号)は、商品区分の第28類「縫いぐるみ、アクションフィギュア、その他のおもちゃ、人形」を指定商品とする、シン・ゴジラの立体的形状についての商標登録出願です。

<特許庁の審決の概要>

特許庁では、本願商標は(「その商品の品質、形状などを普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標は商標登録を受けることができない」という)商標法3条1項3号に該当するものであって、同法第3条2項の規定(商標法3条1項3号に該当する商標であっても、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができるものについては、商標法3条1項の規定にかかわらず、商標登録を受けることができる)の適用を受け得るものではない、として商標登録を認めることができないという拒絶審決が下されていました。

<商標法3条1項3号についての知財高裁の判断>

知財高裁は、「本願商標は、『縫いぐるみ、アクションフィギュア、その他おもちゃ、人形』という本願の指定商品の機能や、美観の発揮の範囲において選択されるものにすぎないというべきであり、商標法3条1項3号に該当する」として、本願商標が商標法3条1項3号に該当するとした特許庁の判断に誤りはない、としました。

<商標法3条2項についての知財高裁の判断>

一方、本願商標について、商標法第3条2項の規定は適用されないとした特許庁判断は、概略、以下の理由により誤りであるとして特許庁の拒絶審決を取消ました。

本願商標は、映画「シン・ゴジラ」(平成28年)に登場する怪獣「ゴジラ」の第4形態に対応するものである。

商標法3条2項の「使用」の直接の対象はシン・ゴジラの立体的形状に限られるとしても、その結果「需要者が何人かの業務に係る商品であることを認識することができる」に至ったかどうかの判断に際して、「シン・ゴジラ」に連なる映画「ゴジラ」シリーズ全体が需要者の認識に及ぼす影響を考慮することは、何ら妨げられるものではなく、むしろ必要なことというべきである。

映画「シン・ゴジラ」は、平成28年7月に公開されると、記録的な大ヒットとなり、本願商標に係る使用商品だけでも、売上数量102万個、売上額約26億5000万円を記録するなど、本件審決時までの約8年間に、本願の指定商品に集中的に使用された。

シン・ゴジラの立体的形状は、映画「シン・ゴジラ」の公開以前から、本願の指定商品の需要者である一般消費者において、原告の提供するキャラクターとして広く認識されていたことが優に認められる。

令和3年9月実施の全国の15歳~69歳の男女を対象とするアンケート調査において、本願商標の立体的形状の写真を示して「何をモデルにしたフィギュアだと思うか」との質問に対する自由回答で、「ゴジラ」又は「シン・ゴジラ」と回答した者が64.4%とされ、極めて高い認知度が示され、その回答結果は、本願指定商品の需要者(一般消費者)の間でのシン・ゴジラの立体的形状の著名性を示すものといえる。

以上を総合すれば、本願商標については、その指定商品に使用された結果、需要者である一般消費者が原告の業務に係る商品であることを認識できるに至ったものと認めることができる。

<今後の見通し>

本願に関しては、これから特許庁へ戻って拒絶査定不服審判(不服2021-11555号)が再開され、今回の知財高裁判決に沿って商標登録が認められるものと思われます。

 

  • 文字起こしの「ネタバレサイト」で初の逮捕者(宮城県警)

人気アニメや映画のストーリーや登場人物のセリフなどを文字に起こし、インターネット上に無断で公開したとして、宮城県警は、サイト運営会社の関係者3人を逮捕しました。大手出版社など計12社の著作権を侵害した疑いです。コンテンツ海外流通促進機構

(CODA)によると、文字起こしの「ネタバレサイト」の運営をめぐり、関係者が逮捕されるのは全国で初めてです。

https://coda-cj.jp/news/2124/

発表によると、3人は2023~24年、映画の作品中の登場人物名、セリフや場面展開などのストーリー全体の克明な内容を文章に起こし、関連画像と共にサイトに掲載していました。これにより、多くのアクセスを集め、広告収入を得ていたとされています。

 

  • 特許出願非公開制度の解説漫画を公開(特許庁)

特許庁は、令和6年5月1日より経済安全保障推進法に基づいて、特許出願非公開制度が開始されたことに伴い、同制度のポイントを解説する漫画を公開しました。

https://www.jpo.go.jp/system/patent/shutugan/hikokai/comic_hikokai.html

内容は「特許出願非公開制度の概要」と「外国出願に関する留意事項」で構成。漫画は、特許庁の職員が作成したもので、特許の専門家でない方に対してもより分かりやすく解説することを目指したとしています。

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発行元: 外堀知的財産事務所

弁理士 一級知的財産管理技能士 前田 健一

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