ブランド戦略からみた社名変更
■なぜブランドを捨てるのか
信用すなわちブランド力が備わった社名をわざわざ変更するのはなぜか。
・もとはブランド力があったが、不祥事等で信用が低下し、新たな社名として出発しようとする場合
・ブランド力はあるが、新しい事業や多角化経営をする上で、全く新しい社名に変更する必要がある場合
などが考えられます。
信用がゼロ近く又はマイナスになっているので新社名にする戦略は理解できますが、長い時間や多額の宣伝広告費などを掛けて築いてきた信用・ブランドをリセットするメリットは何でしょうか。社名変更には莫大な費用を掛ける必要もあります。
■社名変更にみられるパターン
最近の社名変更について上場企業を例に見ていきます。
①よくあるパターンとして、○○ホールディングスを加えて新社名にするケースです。
2016/10/01 第一生命保険 ⇒ 第一生命ホールディングス
2016/10/01 トリドール ⇒ トリドールホールディングス
従来の名称を、持ち株会社に変更すべくホールディングスを加えたものです。ブランド力は維持されるでしょう。
②東京芝浦電気を「東芝」にするような、企業名を省略することによる変更のケースです。
2016/10/01 損保ジャパン日本興亜ホールディングス ⇒ SOMPOホールディングス
2016/07/01 ホシザキ電機 ⇒ ホシザキ
識別力の強い部分は維持されてますので、ブランド力という点では下がらないでしょう。短くなった分だけ、読みやすく覚えやすくなる点からプラスに働くことも想像できます。
③合併による社名変更のケースです。
2017/04/01 JXホールディングス ⇒ JXTGホールディングス
2016/09/01 ファミリーマート ⇒ ユニー・ファミリーマートホールディングス
既存のブランド同士が結合する形の場合が多く、新ブランドに対してもさほど影響はないでしょう。むしろ1+1が2ではなく3以上になる場合も考えられます。
④企業が育てた商品ブランドやサービスブランドを新社名にしてしまうケースがあります。
2017/04/01 富士重工業 ⇒ SUBARU
2016/08/01 アジアグロースキャピタル ⇒ 大黒屋ホールディングス
2016/07/01 健康コーポレーション ⇒ RIZAPグループ
自動車事業のブランドである「SUBARU」に変更することで、自動車事業分野以外でも世界で戦えるようにするためと、富士重工業の社名変更がニュースでも大きく取り上げられています。現在の商品等のブランド力を最大限発揮するという点でブランド戦略としては有効な変更です。
東京通信工業から「ソニー」へ、松下電器産業から「パナソニック」への変更もこのケースに該当します。
⑤積極的な理由から社名を全く新しいものに変更してしまうケースがあります。
2016/12/01 ジェイコムホールディングス ⇒ ライク
2016/07/15 ガリバーインターナショナル ⇒ IDOM
突然「ライフ」だ「IDOM」だと言われても、前身の企業とは結びつかない点で、ブランド構築は最初から始めることになります。しかしながら、世界進出のためや取り組む分野を拡げ多角経営化のために、敢えてブランド力のない社名に変える戦略を取る場合もあるのです。
ジェイコムホールディングスは
『次の成長ステージへ向かうにあたり、求職者様、スタッフ様、保育・介護施設の利用者様、株主様等全てのステークホルダーに愛される企業グループでありたいという気持ちを込めた「LIKE(ライク)」を根幹に各事業会社のブランドを統一することでグループシナジーの最大化を図り、人生のどの段階においても「必要とされる」企業グループから「なくてはならない」企業グループを目指してまいります。』(参照:ニュースリリース)と言っています。
ガリバーインターナショナルは
『「自動車の流通革命」を大きな目標として掲げ、事業拡大を図ってきました。当社経営陣・従業員は、こうした目標に向かって「常に挑戦する」姿勢の大切さを体感し、将来の成長においても普遍的に大切にすべき共通の行動指針であると考えております。未来へ挑戦、「挑む(いどむ)」ことに強い想いを込め、株式会社IDOM(いどむ)と商号変更することにいたしました。』(参照:プレスリリース)と言っています。
■最後に
前向きな社名変更はきっと高いブランド力となって帰ってくるでしょう。上場企業に限らず、中小企業・個人事業主でも社名・屋号変更で悩まれることがあると思います。商号と商標は異なります。商号が取れても商標が取れなければ、差止・損害賠償、そして改めて社名変更となる場合も考えられます。商標登録前の商号に関する相談におきましても弁理士に相談されることでよりよいアドバイスが受けられる場合があります。頭の片隅にでも置いといていただければ幸いです。